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14.2-16 視察7

 地上に積み重なっていた屍の山の中(?)で立ち話をしていた一行は、あまり話し込むと村人たちに聞かれたり、近衛騎士たちが目を覚ましたりするのではないかと懸念して、一旦地下空間へと降りてきた。ジョセフィーヌが、公都に帰還する前に、世話になったアステリアや獣人たちに対して一言挨拶したいと言い出したことも、地下に降りてきた理由の一つである。


 その際、ワルツは、何故か挙動不審になっていた。まるでジョセフィーヌやルシアたちに、地下空間に来て欲しくない、そんな雰囲気すら漂っていたと言えた。


 当然である。


「「「……え゛っ」」」


 地上だけでなく、地下空間にも、死屍累々とした光景が広がっていたからだ。


「い、一体何が?!」

「お、お姉ちゃん?!」

「あー……妾は、何となく分かってしまったのじゃ」


「……ちょっとね。色々あったのよ。色々。ちなみに、死んでないからね?」


 ワルツはそう言うと、獣人たちのために作った偽の杖を取り出して、それをジョセフィーヌに差し出した。


「ジョセフィーヌ?ちょっと試しに、この杖を使って、魔法を放って貰える?」


「えっ?いったい何故……」


「まぁ、良いから良いから」


 ワルツから無理矢理杖を渡される形になったジョセフィーヌは、困惑しながらも杖を受け取ると、それを使って——、


   シュボッ!


——小さな火球を発生させた。


「これでよろしいですか?」


「魔法が出やすいとか、出にくいとかある?」


「そうですね……。言われて見れば、魔法が出やすい気もしますし、そうでない気もするような……。一般的に出回っている普通の杖と同じだと思います」


「……ここにいる人たち、この杖を使ったらこうなったのよ」


「「え゛っ」」


「ちょっと待って下さい!つまり、獣人の方々が魔法を使ったという事ですか?!」


 ジョセフィーヌだけ、ワルツに詰め寄るほど大きく驚いていた。彼女は、ルシアやテレサとはまた別のことで、驚いてしまったのだ。


「うん。普通に……っていうか、普通以上に使っていたわよ?ほら、そこのクレーターとか、焼け爛れた地面とか、崩れた壁とか。あれ全部、彼らが魔法を使った結果だからね?」


「そんな……獣人が魔法を使えるなんて……」


「そういえば、アステリアも、獣人は魔法を使う事が出来ないなんて言ってたわね。まぁ、実際には使えたんだけどさ?」


「信じられません……。もしもそれが本当だとすると、この国の……いえ、この大陸中の獣人たちに対する扱いは大きく変わることになります」


「やり過ぎ注意ね?あとね……その杖なんだけど……偽物よ?」


「「「……偽物?」」」


「そ。私が道ばたに転がっていた木を削って作ったただの棒。杖っぽく見えるように文字っぽいものは彫り込んだけど、特に意味はないわ?」


「どうしてこんなものを……」


 こんなものを作ったのか……。偽物の杖を作ろうと思った経緯が分からず、ジョセフィーヌは眉を顰めた。そんな彼女の表情には、2種類の困惑が含まれていたと言えるかも知れない。1つ目は、前述の通りワルツが偽物の杖を使った理由が分からなかったこと。そして2つ目は、偽物の杖が一般的に出回っている杖と同等の使い勝手だったことだ。


「杖なんて無くたって、魔法が使えることを証明したかったのよ」


「杖が無くても、魔法が使える……?」


「だってほら、ルシアもテレサも、魔法を使うのにわざわざ杖なんて使ってないし」


 といいながら、宙を見上げるワルツ。そこにはルシアが杖無しに作った人工太陽が浮かんでいて……。ワルツ同じく宙を見上げたジョセフィーヌの顔を、遠慮無く照らしつけていたのである。

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