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14.2-14 視察5

「こ、近衛騎士……。まさか近衛騎士がここまで来るなんて……」


「えっと……お姉ちゃん?今さら何か困ることなんてあるの?」


 ルシアは率直に問いかけた。近衛騎士程度の襲来は、彼女にとって予想の範疇。敢えて取り上げるほどのことでもなかったらしい。


 というのも、その場にはワルツの他にテレサもいて、物理的にも、精神的にも、あるいは魔法的にも、攻撃特化の完璧なパーティーと言えるメンバーが揃っていたのである。今の状況なら、1国を相手に戦っても負ける気がしない……。そんな考えを持っていたかどうかは定かでないが、ルシアにとっては近衛騎士など、脅威にすら感じなかったようである。かつてワルツと行動を共にし始めた頃に比べれば、随分と大胆な性格になったと言えるだろう。


 近衛騎士たちを脅威に感じていなかったのは、テレサも同じだった。


「ここには妾もア嬢もおるのじゃから、そんなに気にすることは無かろう?というか、ワルツが一人で近衛騎士たちをボッコボコにしてしまったではないか?今さら何を狼狽えることがあるのじゃ?」


 テレサが言うとおり、100人を越える近衛騎士たちが、その場の地面に沈み込んでいた。しかもその原因は、ワルツの悪ふざけの結果だと言うのだ。確たる実績があるというのに、何を怖がることがあるのか……。テレサには甚だ疑問でしかなかったようだ。


 しかし、ワルツの方は、根が慎重なのか、それとも単に人見知りが激しいだけなのか……。ルシアとテレサから問いかけられても、考えを変える様子はない。


「ちょっと過剰なくらいに気にした方が良いと思うのよ。あんまり自分勝手にやり過ぎると……ほら、後に引けなくなるかも知れないじゃない?どこかの国みたいに……」


「あっ、自覚あったんだ……」

「だとしても、それで困っておる者はおらぬと思うがのう……」


「まぁ、ともかくよ?どこで足が付いたのか、気にならない?私たち、ずっと地下に引き籠もってたわけだし、ジョセフィーヌだって表を出歩いていた訳でもないし……」


「ジョセフィーヌさんの事を知ってる村の人が、見てたんじゃないかなぁ?」


「ワルツとア嬢がジョセフィーヌ殿を攫ってきたときに、顔を見られておったのかも知れぬのじゃ」


「「…………」」


「い、いずれにしても、このままここに拠点を構えていたら、ずっと近衛騎士とか色々な人たちとかに襲われ続ける事になると思うのよ。これさ……いっそのこと、引っ越すしかないんじゃない?新天地に」


 と、ワルツが口にしたところで、ジョセフィーヌがどこか慌てた様子で止めに入る。


「え、えっと、お待ちください。ワルツ様方は、どうかこの場所で生活を送って頂けないでしょうか?私が騎士たちや兵士たちのことを止めますので」


 そう口にするジョセフィーヌとしては、未知の技術や知識を持ったワルツたちの事を、目の届くところに置いておきたかった。レストフェン大公国にとって、ワルツたちは、知識の宝庫。大公の立場にあるジョセフィーヌとしては、その知識を可能な限り引き出して、国の発展に、活用したかったのである。


 しかし、このままだとワルツたちは、国を出て他の地域に行くと言い出しかねない状況。そうなれば、ジョセフィーヌの目論見はご破算になってしまうのである。ゆえにジョセフィーヌとしては、何が何でも、ワルツたちをこの村に留めておきたかったのだ。例えワルツたちが、大公誘拐の大罪人だとしても、だ。


 ジョセフィーヌにとっては幸いだったことは、手札の中に自動杖の存在があったことだろう。ワルツたちは自動杖の技術を求めていたので、ジョセフィーヌの提案は決して分の悪いものではないはずだった。


 ただ、一度揺らいでしまったワルツの気持ちは、中々収束しそうにない。


「そうは言ってもねぇ……」


「ワルツ様方には、この村に……いえ、この国にいて頂きたいのです。実現可能なご要望でしたらご対応いたしますから、どうか再考頂けないでしょうか?」


「なら自動杖——」


「それだけは私の権限でもどうにもなりません。学院に通う橋渡しでしたら対応可能ですので、どうかご自身で、学院に通って情報を得てください」


 繰り返しになるが、ジョセフィーヌでも、自動杖の情報を渡す事は出来なかった。彼女も自動杖の詳しい原理は知らない上、学院との取り決めで、自動杖の技術を安易に国外には出さないと誓っていたからだ。


 ジョセフィーヌが口を閉ざしてから、しばらく無言の時間がその場を支配する。1秒、また1秒と経つにつれて、ジョセフィーヌの背筋にひんやりとした感覚が広がっていった。ワルツたちがレストフェン大公国を見限って、他の国へと行ってしまうかも知れないという懸念が、段々と大きくなっていったのだ。


 このままワルツに考えを委ねていても良いのだろうか……。しかし、何と言ってワルツたちのことを足止めすれば良いのか……。その答えがまったく出ず、ジョセフィーヌが絶望を感じ始めた頃。


「……じゃぁ、交換条件を出しましょう」


 ワルツがそんな事を言い出した。


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