14.2-12 視察3
そんなこんなでテレサだけ昼食のお預けを食らいつつ、一行は次々と町や村を飛び回った。沼地の上に作られた村や、大きな川を挟んで作られた2つの町、奇岩地帯の中にある鉱山都市や、港があるのに船が1隻もない港町などなど……。滞在時間は長くても30分ほどなので、観光らしき観光にはなっておらず、ほぼ通過するだけと言って良い状況だったが、それでもジョセフィーヌは満足をしていたらしく……。彼女は、どんな環境でも逞しく生活を送る自国民の姿を見て、とても嬉しそうに目を細めていたようである。
国を一周して、帰宅予定時刻になった。今夜、ジョセフィーヌは、公都の城に戻る予定になっているのだが、ジョセフィーヌ本人の希望で、一旦、ワルツたちが待つ村へと戻ることになった。迷惑を掛けたのはワルツの方だが、それでもこの3日間、有意義な時間を送れたので、その感謝の言葉を贈りたいのだという。
その結果、3人は、夕暮れの空を村に向かって飛び、そして人目のつかない郊外に降りたって、街道を歩いて村へと戻ってきた。村まであと100mほど。そんな場所までやってきた時、ルシアが不意に口を開く。
「ねぇ……なんか、静かじゃない?」
「ちょっと待つのじゃ、ルシア嬢。お主、ホラーネタは好きでは無かったと記憶しておるのじゃが?」
「好きじゃないけどさ……ホント、何か静か過ぎると思うんだよね。このくらいの時間帯になったら、みんな帰宅を急いで騒がしくなるような気がするけど、シーンと静まりかえってるっていうか、まるで……ううん。なんでもない……」
「……まるで、村全体が死んでおるかのようだ、と言いたいのかn——」
「……うん?何かな?」にこぉ
「…………」
村だけでなく、テレサも静かになる。何やら口を閉ざさなければならない理由があったらしい。
それはさておいても、村が妙に静まりかえっていたのは紛れもない事実だった。帰路を急ぐ村人の姿は、ただの1人も無く、皆、家の扉どころか、ランプすら点けない有様。人の気配はまったくしないというわけではなかったものの、皆、息を殺しているかのようで、静まりかえった村には、言い知れない緊張感、あるいは不気味さと表現出来るような気配が漂っていた。
ルシアたちも当初は嫌な気配を感じ取っていた。特に、ジョセフィーヌはこういった事態には慣れていなかったらしく、胸の前で両手を握り閉めている程だった。
自分たちがいない間に、村で何かが起こった——いや、起こっている……。そう確信した3人は、最大限の警戒をしながら、自宅への帰路を急いだ。そして、家の前までやってきた3人は、そこで繰り広げられていた光景を目の当たりにして、目を見開いた。
死体の山だ。死屍累々とした光景が、自宅の前に広がっていたのである。
「し、死んでる……?!」
ルシアは思わず後ずさった。知らない村人たち——それも全身に甲冑を纏った村人たち(?)が、家の前で何十何百人と横たわっていたのだ。
尤も——、
「いや、待つのじゃ。死んではおらぬようなのじゃ」
——事情が見えてくれば、話は別だったようだが。
「「えっ?」」
「死んでおる者はおらぬようなのじゃ。それどころか、皆、怪我もしておらぬようなのじゃ。気を失っておるだけ……そんな感じかのう」
テレサにそう言われた後。ルシアとジョセフィーヌが近くで横たわっていた者たちに近付いて、彼らの脈拍と呼吸を確認してみると、確かに皆、生きていたようである。それに気付いたルシアは、はぁ、っと大きく溜息を吐いた。
ジョセフィーヌの方も、村人(?)が生きていることを確認して安堵していたようである。そんな彼女は、さらに別のことにも気付いた様子だった。彼女が何に気付いたのかは不明だ。彼女の視線は、村人(?)が来ていた鎧に釘付けだったとだけ言っておこう。
そしてジョセフィーヌが何かを言うために口を開こうとした時。事態は急転を迎える。
ガサガサッ……
何かが蠢くような動くような音が、その場に響き渡ったのだ。例えるなら——まるで茂みの中に魔物が隠れているような、そんな音が。




