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14.2-11 視察2

「……どう答えれば適切なのでしょうね……。魔物たちが強い、と言えば言い訳のようにも聞こえますし、狩りをする者たちや冒険者たちが弱い、と言えば、危険な仕事に従事している彼らの事を愚弄することになってしまいます。どうかお察し頂けると幸いです」


「まぁ、妾としては細かな表現については気にせぬが、要するに、魔物たちを狩るのはあまりに危険すぎる事情があるゆえ、肉が確保出来ぬ……といったところかの?」


 テレサはジョセフィーヌに確認を取りながら、脳裏である魔物の事を思い出していた。その魔物の名は"ニク"。小鳥の姿をした凶悪な魔物である。


 ニクのような魔物が(ひし)めいているのなら、魔物狩りを諦めて、食虫文化が流行ったとしても仕方がない、とテレサは考えていたようである。何しろミッドエデンでは、ニク1羽によって町が半壊するほどの強さがあるという記録が残っているのだ。そんな魔物を簡単に狩れるだけの力や技術を持っている国があるというのなら、その国は恐らく今頃、世界の覇権を握っているに違いない。


 ニクのことを考えながらテレサが問いかけると、ジョセフィーヌはコクリと首肯する。


「そうです。彼らは強力な魔法を使い、そしてなにより頑丈。こちらが剣で斬りつけても、魔法をぶつけても、魔物たちにはかすり傷を与える程度しか効果は無いのです」


 人々が行き交う町の中で、冒険者たちが美味しそうに虫料理を頬張っている……。レストフェン大公国では極普通の光景に、ジョセフィーヌは目を細めながら言葉を続けた。


「あなた方が求めている自動杖も、元はと言えば魔物たちを討伐するために開発された武器でした」


「(じどうじょう?あぁ、ワルツが言っておったやつかの?)」


「1対1で魔物が倒せないのなら、1対10で戦えば良い……。自動杖を導入することで、魔法を使えない人々も手軽に魔法を使えるようにして、戦力不足を補おうとしたのです。前任の大公の代で大規模な実験が行われました」


「……その言い方じゃと、上手くはいっておらぬのじゃな?」


「はい。ご推察の通りです。自動杖を使う事で大勢の人々が魔法を使えるようになったところで、魔物たちに対して有効ではない攻撃を10倍に増やしても100倍に増やしても、与えるダメージは結局0。実験に参加した多くの人々に死傷者が出たと伺っています。杖の開発によって、確かに戦力の底上げには成功しましたが、魔物たちの強さにはほど遠く、狩れたとしても弱っている個体くらいのもの。当然、市場に流通するほど大量には狩れませんでした」


「ふむ……。しかし、なぜ、虫を食べるようになったのじゃ?いや……肉が獲れぬゆえ、比較的簡単に狩れる虫たちに逃げたのじゃな?」


「虫を食べ始めるようになったのは、前任の大公どころか遙か遠い昔の話ですので、人々が虫たちを食べ始めた経緯については推測でしかお話し出来ませんが、歴史学者たちはそのように考えているようです」


 そう話すジョセフィーヌは、国のトップゆえか、自分たちが魔物に勝てないことを恥じていたらしく、恥ずかしそうでありながら、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。テレサたちが、他国の政府高官なのはほぼ確実だと考えていたジョセフィーヌにとっては、自分の国のネガティブな点を紹介する形になり、実際、恥ずかしかったのかも知れない。


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