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14.2-09 獣人たちと魔法9

   ガサガサ……


 という音が出ていたわけではない。茂みの葉は揺れていなかったからだ。


 ただ、動きはしていた。そう、ゆっくりと。それも茂み全体が。


 一体何が起こっていたのかというと——、


「(すっごい緊張感だわ……。何て言うの?エクストリーム隠れんぼ?)」


——指からレーザーを出したワルツが、隠れていた茂みの根を切断して、それを手に持ってゆっくりと移動していたのだ。隠れる場所が無いのなら、隠れる場所ごと移動すれば良い……。そんなトンデモ発想の結果が、ゆっくりと動く茂みの原因だった。


 ワルツの思考や行動は、人には真似出来ないほど高速化出来る一方、逆に低速化もできるのである。そのことを利用して、人や動物に感知出来ないほどゆっくりと移動すれば、SFXの技術の一つであるモーフィングのように誰にもバレずに移動出来るのではないか、とワルツは考えたのだ。


 実際、騎士たちは、茂みが動いていることに気付いていない様子だった。あまりにゆっくりすぎて、知覚出来なかったのである。


「(行けるわ!)」


 ワルツは確信した。しかし、その確信が、彼女の行動を大胆(?)にする。


 ワルツは何を思ったのか、茂みの移動方向を、家の裏手方向ではなく、村を貫く街道と平行する方向に向けたのだ。家の裏手に抜けられる位置まで来れば、そこから走って森に逃げられるというのに、わざわざ人目に付くルートを選択して、村を抜けて森に入ろうとしていたのだ。


 その結果、知覚出来ないほどゆっくりと動いていたにもかかわらず——、


「……なぁ」

「ん?何だ?何か分かったか?」

「いや……分かったというか、何というか……あの茂み、動いてないか?」


——騎士たちに気付かれることになる。


「そうか?」

「あぁ、さっきまでは監視対象の家の前にあったはずだ。それがいつの間にか移動して、隣の家まで移動してる……そんな気がするんだ」

「何だ?お前もそう思ったか?実は俺もなんだ」


 物陰に隠れていた騎士たちが、茂みの異常について話し合い始めたのだ。ワルツはその話し合いを離れた場所でも聞くことができたので——、


「(ヤバっ……バレた!)」


——茂みの中で文字通り青くなっていたようである。


「(近くに逃げられる場所は……無い?!隣の家に飛び込む?いえ……それをやるくらいなら大人しく逃げたほうが良いわよね……)」


 追い詰められたワルツは色々と考えた。近くに逃げ場所はないか、姿を見られる前に急いで家に戻るか、それとも森に駆け込むか……。その内正解は、森に駆け込むという選択肢なのは明らかなのだが、彼女は何を思ったのか——、


「(……これしかない!)」


——明後日方向に舵を切った。


 そう、文字通り明後日の方向だ。森の方向でも、家の方向でも、それどころか村を抜ける方向でもない。ワルツは茂みを手に持ったままで立ち上がると——、


   ギュウンッ!!


——騎士たちに向かって突進したのである。


  ◇


 そして数分後。


 村の中に意識を保っている騎士はいなかった。茂みを持ったままのワルツが、騎士たちに襲い掛かり、皆の意識を刈り取ったのだ。それも物理的に。


 後日、意識を取り戻して無事に帰還した騎士たちは、揃ってこんな報告書を書いたのだという。……茂みに襲われて作戦は失敗した、と。

思うようにストーリーを動かせぬ時は、こういう展開に持っていくのもありなのではないか……。

そんな逃げを考えてしまう今日この頃なのじゃ。

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