14.2-06 獣人たちと魔法6
数分後。ワルツの姿は地上階にあった。より具体的には、地上に作った仮設住居の中だ。ワルツはそこまでやってきたものの、最後の1歩を踏み出せずに足踏みをしていたのである。
散策をするために森に行くためには、村人たちの目を盗んで森に入る必要があった。……いや、"必要"という言葉は不適切だろう。別に村人たちに見つかっても問題は無いのだ。堂々と表に出て、村人に会ったら挨拶をして、そして森に入ればいいだけなのだから。まぁ、その普通が出来ないのが、ワルツなのだが。
「(ヤバいわ……。すっごい、ドキドキする……!)」
何か後ろめたいことでもしようとしているかのように挙動不審になりながら、ワルツは窓から外を覗き込んだ。すると、村の通りを絶えず1〜2人ほどの村人たちが歩いている様子が彼女の目に入ってくる。
「(なんか潜入ミッションみたいね!)」
村人たちに見つからないよう、森へと行って、軽く散歩をしてから戻ってくる……。ワルツはそんな自分ルールを決め込んで、仮設住居から表に出ようとした。
しかし、村の人通りは中々途絶えない。そればかりか、ワルツがいた仮設住居の方を指差して、何やら話し込んでいる村人までいる始末である。当然、家の外に出るなど不可能に近く、ワルツは眉を顰めてしまう。
「(まず、こっちを見ながら話し込んでいるあの2人組を黙らせる必要があるわね……)」
ワルツは窓から顔を引っ込めると、代わりに赤外どころかX線まで見える目を使って壁の向こう側の観察を始めた。その結果、家から出るためには、仮設住居を見ている村人たちのことをどうにかしなければならないという結論に至り……。ワルツは、そこにいた村人2人を排除することを決めた。
とはいっても、村人たちの事を殺害するわけではない。その場から退けて貰えれば良いだけだからだ。
問題は、村人たちを攻撃(?)するには、家の扉を開かなければならないことだった。そんな事をすれば、道を歩く他の村人たちに気付かれるので、ワルツの自分ルールは家の扉を開けた時点で破綻してしまう恐れが高いと言えた。
ゆえに、ワルツは、仮設住居の扉を開けずに、壁越しに村人たちを排除することを決める。ただし、前述の通り、ワルツには村人たちを傷付けるつもりは無かったので、彼女は非殺傷な方法を使って、村人たちを攻撃(?)する事にしたようだ。
その現象は、ワルツが両手を家の壁に付けた直後に起こる。
ブォォォォォン……!!
家の壁が小刻みに揺れて、低周波音が生じ始める。ワルツは家の壁を巨大なスピーカーにすることで、音響兵器を作り出したのだ。
ワルツの2本の手によって2種類の音波が作られ、それが村人たちのところで合成され、彼らの脳を揺らした。それだけで、村人たちは強烈な吐き気を催し、そしてそのまま意識を失って、倒れてしまう。
「(あっ……ちょっと効き過ぎたかしら?ま、まぁ、死んだわけじゃないし、大丈夫でしょ。きっと)」
やり過ぎた感が否めなかったものの、ワルツはあまり深く考えるようなことはせず、作戦を次の段階へと移行した。常時、仮説住居を観察していた村人たちを黙らせたので、今度は通行人のタイミングを見計らって、家から出ようとしたのだ。




