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14.2-05 獣人たちと魔法5

「……あー、やっぱりやること無いわー」


 獣人たちを1人残らず昏倒させた後。ワルツは再び手持ち無沙汰に襲われていた。ルシアたちが出発したのは3時間ほど前。帰宅まではまだ5時間以上掛かりそうだった。


 その間、どうすれば良いのか……。起きている者が誰1人としていなくなってしまった地下空間で、ワルツは頬を膨らませながら考える。


 そもそも、彼女が暇だったのは、やることが無いから、ではなく、出来る事が無いからだった。機動装甲を失った今の彼女には、出来る事が大きく制限されていて、以前と比べれば無力も同然。空も飛べなければ、マイクロブラックホールを作ることも出来ず、無線通信すら出来ないありさまだった。本当の意味で、"ただの町娘"に近い状態にあると言えたのだ。……そう、以前と比べれば。


 実は、機動装甲を失ったことで機能の大半が失われたからといって、人間程度の力しか持っていないかというと、そういうわけでもなかったのである。今の子どものような見た目の身体であっても、ガーディアンはガーディアン。テレサやコルテックスなどの、機械の身体を持った者たちと比較しても異次元のレベルの強度を持ち、搭載される知覚系のセンサーも規格外の精度と感度を誇っているのである。何も出来ないと嘆くなど愚の骨頂としか言いようがないほどのスペックだ。


 ようするに、ワルツは何かをしようとすれば、いくらでもやれることはあったのである。それでも彼女が暇を持て余していたのは、単に趣味を持っていない事が原因だった。多趣味に見えるワルツだが、実際のところは、機動装甲の復元と、元の世界に戻るための空間制御システムの復元に関係しない事柄には殆ど興味は無く……。人らしい趣味と言えるものが今まで無かったのだ。


 ……いや、たった一つだけ趣味と言えるものがある。散歩だ。森の中など自然の中を歩くことが彼女の趣味である。


 しかし今のワルツは、散歩をするのが億劫だった。外の世界に出て、散歩するのは非常に魅力的ではあったものの、村の人々と1人だけで顔を合わせて会話をすることが出来ず、さらには、いつ学生たちが襲ってくるかも分からず……。外の世界に向ける好奇心と比べて、予想外の出来事が起こるかも知れないという心配の方が遙かに大きかった。


「出不精ね……私……」


 ワルツ自身もそのことには気付いていたらしく、地下空間に置かれていたベンチに座りながら、そこにあった机に肘を置いて、深く溜息を吐いた。


「勇気を出して出歩いたら、少しは世界が変わるのかしら?」


 ワルツはそう言いながら、リスクについて考える。村人たちと遭遇する確率80%、学生たちに襲われる確率20%……。


「どう考えても、表に出て行くのは危険よね。うん。危険よ。でも気になるのよね……」


 結果、彼女は出不精になる。無限ループだ。何度も同じ事を繰り返し考えては、同じ結果に辿り着き、そしてその結果に納得が出来ず、また頭を抱えて考えるのである。もはや何度考えたかも覚えていないほど、同じ事を繰り返し考え、今回もまた、同じ結論に辿り着こうとしていた。


 ただ、彼女はそのループを越える方法を知っていたようだ。


「……でもやること無いし……覚悟決めて行っちゃう?」


 深くを考えずに、とりあえず行動すれば、もしかしたら想定している結末とは異なる結果が得られるのではないか……。所詮、確率は確率。予想しない展開になる可能性もゼロではないのだから。


「(せめて、アステリアが起きていれば良かったんだけど……)」


 心細さを感じながらも、ワルツは地下空間の天井を見つめる。そこにあったのは外に繋がる地下空間の出入り口。静かな好奇心が、ワルツの心をくすぐっていた。

なぜか超眠いのじゃ。

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