14.2-04 獣人たちと魔法4
「……あー、やること無い……」ぐたー
一気に魔力を使ったことによって、急性魔力欠乏症を発症したアステリアをベッドに寝かせた後。やることが無くなったワルツは、今の机の上でグッタリと突っ伏していた。ただ、その表情は暇で仕方がない事によってうんざりしている、といった様子ではなく、少しだけ嬉しそうな表情といえた。
というのも、アステリアが思いのほか、魔法を使えそうだということが分かったからだ。場合によっては、彼女と同じく、地下空間に連れてきた他の獣人たちも同じように強力な魔法が使える可能性もあると言えた。
ただ、ワルツは、他の獣人たちに話しかけるのが億劫だったようだ。いつもの人見知りの激しさが炸裂して、1人だけで獣人たちに話しかけられなかったのである。
ゆえに、ワルツは暇だった。ルシアも、テレサも、アステリアも、ここにはおらず、やりたい作業も進まない。家の中に引き籠もりながら1人で出来る事と言えば、やりたいことの設計図を頭の中で書き上げるくらい。しかしそれも既に殆ど終えているらしく——、
「なんかやることないかな……」ぐでー
——やはり特にやれることは無かった。
「(表の様子を見てくる?階段登るの面倒いわね……。これならもっと浅い場所に拠点を作るんだったわ……)」
いっそのこと、ルシアたちが戻ってくるまで、ここでグッタリと時間を潰していようか……。直前までそんなことを考えていたワルツだったが、大きな溜息を吐くと——、
「……よし!言ってくるか」
——気合いを入れて椅子から立ち上がった。
そして彼女は、アステリアのために作った杖を握りしめると、意気揚々と家の外へと飛び出したのである。
◇
2時間後。
「「「 」」」
ワルツがいた地下空間には、死屍累々、あるいは屍の山、と表現出来そうな光景が広がっていた。死んでいた(?)のは、ワルツたちと共に地下空間に住んでいた獣人たちで、一応、息はしているようだが、皆、地面に伏せたり、崩れ落ちたり……。満身創痍そのものだった。
そんな獣人たちを眺めていたワルツは、とても上機嫌な様子だった。もはや、獣人たちが死にかけてしまう展開を望んでいた、といった様子だ。
一体何が起こったのかは、その場の光景が語っていた。黒く焼け焦げた地面、川の中に出来たクレーター、抉れた壁に、ひび割れた道などなど……。もう一言、付け加えるなら、満身創痍だった獣人たちの表情だ。皆、何かをやり遂げたかのように満面の笑みを浮かべながら息絶えて(?)いたのだ。
……そう。獣人たちは、皆、魔法が使えたのである。ワルツが杖を持たせたところ、皆が喜々として魔法を使い、アステリアのように急性魔力欠乏症に陥って昏倒してしまったのだ。今まで魔法が使えないと思っていた獣人たちは、その結果に大層喜んだ。魔法が使えれば、彼らの人生は一変するからだ。
「まぁ、悪くはないわね」
昏倒する獣人たちが大勢いる中、一人だけ立っていたワルツは、目の前の光景を眺めながら、皮算用をする。……ルシアだけに作業の負担を掛けるのではなく、他の獣人たちにも作業を分散させれば、自分の計画——つまり機動装甲の再構築計画をもっと早められるのではないか、と。
「……でも、話はそんなに上手く進まないわよね……」
そんな事を呟きながら、ワルツは思う。……獣人たちが魔法を使えたのは良いが、それによって彼らのこれからの人生はどうなってしまうのだろうか。この国、レストフェン大公国では、獣人たちはどんな事をしても奴隷という身分から抜け出せないのだから、魔法が使えたと分かっても、彼らの人生は良い方向には進まないのではないか、と。
「自由を勝ち取るために戦争を始めるとかありえるのかしら?地球でもそんな歴史ばっかりだったし……」
どうすれば、自分の目的を達成しつつ、獣人たちにも明るい未来をもたらすことが出来るのか……。そんなワルツの悩みに答えは見つからず、彼女はルシアたちが戻ってくるまで、ずっと悩み続けたのである。ただし、どこかワクワクしたような表情を浮かべながら。




