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14.2-02 獣人たちと魔法2

「というわけだから、ほら、魔法」


「え、ええ……」


 アステリアはドン引きと言えるほどに引いた。急に魔法を使えと言われても、杖無しに魔法が使えるとは思っていなかったからだ。


 しかも、ワルツ自身、魔法が使えないというのに、アステリアに魔法を使えと迫っていたのだから、尚更、無理難題だと言えた。アステリアの方はそのことを知らなかったので、無理、と断ることが出来ず……。さも当然のごとく、魔法を使えと言ってくるワルツを前に、困惑してしまう。


「で、ですから杖が無ければ……」


 杖が無ければ魔法は使えない……。アステリアは改めて杖の必要性を説明しようとした。彼女の常識では、魔法の行使に杖は必須。逆に言えば、杖さえあれば魔法が使えると信じ込んでいたと言えた。


 対するワルツも、アステリアが何を言いたいのかは分かっていたものの、ルシアたちが杖無しに魔法を使っていたので「杖が無くても魔法は使える」と反論するつもりでいたようだ。だが、その直前で、ふと考え込む。


「(杖があれば魔法を使える、って主張したいのよね……なるほど……)」ニヤァ


 そんな事を考えたワルツは、人の悪そうな笑みを浮かべると、アステリアに対し、こんなことを言い出した。


「そうね……分かったわ。じゃぁ、私が杖を作るから試してみましょう」


「えっ……?マスターワルツは、杖を作る事の出来る職人様だったのですか?!」


「ふふっ……昨日だってポンプを作っていたし、その前だって、色々なものを作っていたじゃない?杖くらい余裕よ?余裕」しれっ


「す、すごい!」


 アステリアは目を輝かせた。ワルツがまさか杖を作れるとは思っていなかったのだ。


 ちなみに、ワルツが本当に杖を作れるのかというと、そんなことはない。魔法が使えず、魔力を感じ取れない彼女に、本物の杖を作れる訳がないからだ。つまり彼女の発言はハッタリ。真っ赤な嘘だった。


 ただ、それでもワルツは、アステリアが魔法を使う上で、問題は無いと考えていたようである。アステリアが先入観で、杖が無ければ魔法を使えない、と思い込んでいるのは確実。なら、その先入観をプラシーボ効果で有効活用すれば、たとえ偽の杖であっても、本物の杖と同じような効果が得られるのではないか……。それがワルツの作戦だったのだ。


 ◇


 というわけで、ワルツは急遽、杖らしきものを作成した。材料は、家具を作った際に地上から調達してきた木材の破片で……。それを即席のナイフで削って、彫刻を施し、あたかも本物の杖のように見せかけた。


 ただ、それだけでは、嘘の杖だと見抜かれると思ったのか——、


「アステリア?髪の毛を1本貰えるかしら?」


——杖にアステリアの髪の毛を仕込んで、本物らしく装っていく。


 最後に小さなオリハルコンのリングを杖の底に填め込んで……。なっちゃって杖の完成だ。


「はいこれ」


「おぉ……」キラキラ


「(うわ……めっちゃ目がキラキラしてるじゃん……。これ、嘘だって言えないわ……)」


 ワルツは内心で頭を抱えるが、ここまで来たなら最後まで突き通そうと開き直ると、アステリアに向かってこう言った。


「この杖は火魔法専用よ?氷魔法とか他の魔法は……まぁ、使えなくはないかも知れないけれど、火魔法しか使えないと思って頂戴」しれっ


「は、はい!」


 ワルツから杖を受け取ったアステリアは、酷く緊張した様子でその杖を構えた。


 彼女たちがいる場所は、地下空間内の家の裏庭。少し先では、地下の岩盤がむき出しになった壁があって、そこが魔法の的となる。


 アステリアは、その岩盤部分を見据えて、ゴクリと唾を飲み込むと、ひと思いに魔法を——、


「ていっ!」


——放ったのである。


   ズドゴォォォォン!!


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