14.1-37 レストフェン大公国33
村長と挨拶を交わし、村人たちとも何も無かったかのように会釈を交わした後。ルシアはジョセフィーヌとテレサと共に、村の近くにあった森の中まで歩いてきた。森の中に落ちておいても木々が上手い具合に開けていて、空がハッキリと見える場所だ。
こんなところで一体何をしようというのか……。理由も聞かされずにここまでやってきたジョセフィーヌが、周囲を見渡しながら不思議そうに首を傾げていると、先頭を歩いていたルシアが、「ここなら大丈夫そうだね」と言って、ジョセフィーヌとテレサの手を取った。
「ジョセフィーヌさん、準備は良い?」
「……何故妾には聞かぬ?」
「だって、テレサちゃんが準備出来てないなんてこと、無いでしょ?着の身着のままで来たばかりだし、準備すること何て無いし……」
「…………」ムスッ
「ルシア様。準備は良い、とはどういうことですか?」
不機嫌そうなテレサを尻目に、ジョセフィーヌがルシアに向かって問いかけると、ルシアも不思議そうな表情を浮かべて返答する。
「えっ?移動するための準備?」
「移動?」
「あれ?昨日、言ったよね?ジョセフィーヌさんを公都に帰す前に、この国の中をぐるっと回って、ジョセフィーヌさんにレストフェンっていう国がどんな国なのかを見せる、って」
「確かに仰っていましたが、あの話はてっきり、この先いつかの機会で行くものだと思っておりましたが……」
「ううん。今だよ?だって、ジョセフィーヌさんのことを公都に帰すのって、今日のつもりだし。それに、せっかくテレサちゃんを呼んだんだからさ?」
「…………」
ジョセフィーヌはルシアの話を聞いて、昨日のことを思い出していた。……100人以上押し寄せてきていた学生たちを言葉1つだけで追い払ってしまうテレサの魔法。そんな彼女の魔法はレストフェン大公国にとって吉と出るか、凶と出るか……。もしも、公都にテレサがやってきたなら、たった1人で公都は制圧されてしまうかも知れない……。そんな懸念が次々とジョセフィーヌの頭の中を駆け巡っていく。
結果、ジョセフィーヌが険しい表情を浮かべていると、ルシアが慌てて言葉を補足する。ジョセフィーヌが自分たちの事を疑っていると思ったらしい。
「あ、いや、テレサちゃんを呼んだのは、私が獣人だってバレて酷い扱いされたり、ジョセフィーヌさんに危険が及ばないようにするための保険だよ?テレサちゃんの魔法を悪用して何か悪いことをしようとしているとか、そういうわけじゃないからね?ねぇ、テレサちゃん?」
「それはいらぬ一言だと思うのじゃ。余計な事を言うから疑われるのじゃ?」
「むっ」じぃっ
「いえ、悪用しないかを疑っている訳ではありませんよ。私は信じています。あなた方の国と、我がレストフェン大公国が、平和的に関わり合っていけることを」
ジョセフィーヌはそう言いながら、眉間の皺を緩めた。ルシアとテレサのやり取りを見ている内に、懸念はどこかへと消え去ってしまったらしい。あるいは、疑ったところで何も始まらないと考えたのか……。
結果——、
「大丈夫だよ。ウチの国って、変わってる人は多いけど、戦争が好きとか、争いが好きとか、そういう頭のおかしい事を言う人、いないから。それじゃぁ、行くね?」
——ルシアはジョセフィーヌの懸念を払うようにそう答えると——、
フワリ……
——重力制御魔法を行使して、自分とジョセフィーヌ、そしてテレサの身体を宙に浮かべたのである。




