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14.1-35 レストフェン大公国31

「機動装甲が欲しいって言った理由は分かったわ。でも、さっきも言ったとおり、まずは私自身の機動装甲を制作してからよ?あと、モノがモノだから確約は出来ないわ?前向きには考えるけれど……」


「ふむ……。まぁ、妾にはお願いする事しか出来ぬのじゃ。どうか検討してほしいのじゃ」


 懇願するテレサを前に、ワルツは内心で今回のことを聞かなかったことにしようかとも考えたようである。機動装甲とはその存在だけで、世界のバランスを壊してしまうほどの代物だからだ。


 ただ、完全に無視するほど冷徹にもなれなかったらしく、これからのテレサの行動や、アルタイル関連の出来事によっては、機動装甲に準ずる何かを作っても良いと考えていたようである。テレサのためだけでなく、他の者たちも使えるような"装甲"。そんなモノがあっても良いのではないかと、前々から考えていたのだ。まぁ、そのことを口に出すことはなかったが。


 ワルツはその代わりに、ジョセフィーヌに対して水を向けた。


「ジョセフィーヌ。今の話、理解出来た?」


 機動装甲の話は、ミッドエデンの話どころではない極秘事項である。ただ、テレサとの会話だけでは機動装甲が何たるかを推測する事は出来ないはずなので、ワルツはジョセフィーヌたちの前で話をしても問題無いと判断したのだ。


 ただ、ワルツは変なところで小心者だったので、念のため聞くことにしたようである。尤も、聞いたところで"知らない"の一点張りをされてしまえば、本当に理解しているかどうかは分からなくなるのだが、それでも聞かないよりはマシだと思ったようだ。


「いえ、まったく分かりませんでした。その、アル——」


「ダ、ダメよ?あの魔王の名前を口にすると、たまに杭が飛んできて殺されちゃうんだから。今は飛んでこないみたいだけど……」


「魔王……魔王というのは——」


「あー、そっちもダメ。そのことを誰かに話したら、あなたもこの国の国民も、後戻り出来なくなるから」


「……では、きどう——」


「ごめん。それを誰かに話したら——」


 ワルツはそう言って右手をジョセフィーヌに向けた。すると——、


   ギュゥンッ!


——ジョセフィーヌの身体がワルツに吸い寄せられるかのようにフワリと中を飛んで、ワルツの右手の前でピタリと止まる。


 その結果、驚愕の表情を浮かべていたジョセフィーヌに対し、ワルツは躊躇うことなく忠告する。


「私が貴女たちのことを口封じしなければならなくなるから、それだけは誰にも言っちゃダメ。お願い」


 そう口にするワルツの目は、真剣そのもの。むしろ殺意すら込められていたと言えるかも知れない。


 そんな彼女の青い瞳を向けられたジョセフィーヌは、何も言わずにただ首を2度ほど縦に振った。手足を動かせず、ただ首と表情だけしか動かせなかったジョセフィーヌが、ワルツのその行動にどんなことを思ったのかは定かでない。ただ、彼女の目は、自分よりも遙かに背の低い年下の少女に向けられるべきものとはほど遠く……。酷く、顔色も悪かったようである。


 ワルツはジョセフィーヌのことをすぐに解放すると、「食事中に悪かったわね」と謝ってから、アステリアの方にも視線を向けた。


 ……そう、視線を向けたのだが——、


「…………」ぷるぷる


——アステリアは部屋の角の方で小さくなって頭を抱えていたようである。それも尻尾を股の間に挟み、獣耳はぺたりと倒した状態で。


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