6序-15 狩人の災難1
狩人→エリザベス
一部修正
無駄にヘトヘトになりながら、勇者が王都へと向かっていた頃。
天蓋付きベッドで眠る鬼人の部屋に訪れる影があった。
「・・・おーい、シラヌイ?朝飯食べないのか?」
朝食の時間になっても食堂に顔を出さなかったシラヌイが心配になった狩人が、彼女の様子を見に来たのである。
だが、そんな狩人の心配とは裏腹に、
「・・・zzz」
シラヌイは布団から足や腕を出して、大の字で眠っていた。
随分、寝相が悪いらしい。
「こう見ると、ルシアよりも小さな女の子に見えるんだけどな・・・」
なおシラヌイは15歳なので、ワルツと同い年である。
まぁ、それでも狩人よりは3つ下だが。
「・・・もう少し寝かせておくか」
何となく、ぐっすりと眠っている子どもを起こすような気がして、狩人はシラヌイを起こす事を止めた。
そして、シラヌイが風邪を引かないよう、ずれていた布団を直す。
「(本当は温かい内に朝食を食べて欲しいところだが・・・まぁ、昨日も夜遅くまで作業していたみたいだし、仕方ないだろう)」
そして狩人は、食事と置き手紙を机の上に残して、静かに部屋から出て行った。
故郷を無残にも破壊された狩人が、サウスフォートレスではなく、何故ミッドエデンにいるのか。
話は単純で、つい先日まで王城でカタリナの治療を受けていた彼女の両親がサウスフォートレスに帰ることになり、その代わりとしてサウスフォートレスの代表代理兼窓口を務めるべく、王都に残っていたのである。
最初は、自分もサウスフォートレスへ行くと言い張った狩人だったが、文官(地方公務員)として仕官していた彼女の兄2人が代わりにサウスフォートレスへ戻ることになったこと、そして伯爵達両親にこのまま王都でこれまでのようにサウスフォートレス代表代理として残って欲しいと言い包められたことから、1人王都に残ることになったのだ。
「窓口か・・・」
食堂に使った食器を戻した後、王城の廊下を会議室に向かって歩きながら、狩人はそう呟いた。
サウスフォートレス復興のために、一体どうすればいいのか。
狩人は狩人なりに悩んでいたのである。
彼女に任せられた代表代理という仕事は、それほど難しい仕事ではなく、
1、議会からの連絡をサウスフォートレスの代表として聞き取り、伯爵達に伝達する
2、伯爵達の意見を議会に伝達する
・・・文字通り、伝達役でしか無かった。
しかし、単なる窓口とはいえ、そこは代表代理。
予期しない自体が生じた場合には、事後承諾という形で、ある程度の決定権が任せられていたのである。
要するに狩人には、独自に考えて、サウスフォートレスの利益になるような行動をする自由があると言えるだろう。
「(だけど、何をすればいいんだろう・・・?)」
普通に考えるなら、国や信用のおける他の貴族たちと、復興資金の借款の契約を結ぶことだろうか。
もちろん、独自に決定することは出来ないが、情報収集や根回しという意味では、狩人にも活動する余地があった。
・・・そう普通なら。
だが今回、サウスフォートレスが壊滅的ダメージを負ってしまったのは、そもそもはワルツ達が神々に眼を付けられたことが発端であった。
なので、原因となったワルツが復興資金を拠出する・・・という訳にもいかないので、ミッドエデンの国家を通じて、全額負担する事になっていたのである。
所謂、復興特別予算である。
・・・まぁ、ミッドエデンは封建制から議会制に変わった際、国の中枢が税額と予算の配分を決めるという形に変化したために、例えワルツたちが原因ではない災害や紛争が生じて都市がダメージを受けたとしても、国から復興予算が降りるのだが・・・。
「(・・・やること無いんだよな・・・)」
厳密には、代表代理として議会に参加することや、復興の状況を議会に報告することなど、仕事が無いわけではない。
だが、それは飽くまでも、代表代理としてこなさなくてはならない義務のようなものなので、彼女が考えた行動とは言えなかった。
「(・・・まぁ、議会に参加しながら考えるか)」
会議室の前まで来たので、とりあえず狩人は考えることを止めた。
会議が始まってから半刻ほど経過した頃。
「・・・では、次の議題じゃ」
と、コルテックスがテレサの真似をして、会議を進めていく。
・・・だが、どういうわけか、いつもは居るはずの影武者(テレサ?)の姿が見えなかった。
珍しく、何か急ぎの用事があったのだろうか。
・・・一方、狩人は、
「(・・・国中の職人を派遣してくれれば、サウスフォートレスもすぐに復興するんだがな・・・)」
全く会議に身が入っていなかった。
「(でも、他の街で職人不足とかになったら一大事だからな・・・無いか・・・)」
あーでもない、こーでもない、と考えていく狩人。
すると、
「・・・というわけなのじゃ。エリザベス代表代理」
突然、議長の声が、会議とは関係ないことを考えていた狩人の耳に届く。
「・・・え?あ、はい」
思わず、肯定する狩人。
「うむ。ならば、この案について後ほど作業部会を設置するのじゃ」
「・・・え!?」
・・・なにやら、狩人の知らない(聞いていない)ところで、何らかの話が進んでいたようである。
「では、次の議題じゃ」
「ちょっ・・・」
一体何の話だったのか、聞こうとする狩人。
だが、コルテックスが次へと話を進めてしまったために、何の話だったか聞きそびれてしまう。
・・・いや、そもそも、会議の話を聞いていなかったので教えてほしい、とは議員たちの前では言えないだろう。
「(・・・どうする・・・?)」
次第に顔が青くなっていく狩人。
だが、結局、何の話だったのか分からず仕舞いで、会議は終わってしまった。
「コルテ・・・議長!待ってくれ!」
会議室から出ようとするコルテックスを呼び止める狩人。
・・・だが、
「狩人さん、すみません。今、お姉さまに急ぎの用事で呼ばれておりますので〜」
「あ、うん・・・呼び止めてすまない」
そして、何故か小走りで逃げていくアトラスと共に(?)、ワルツが居るだろう地下大工房へと進んでいくコルテックス。
去り際に、
「あ、狩人様?5時からの作業部会は、忘れずに参加してくださいね〜?サウスフォートレスのためなんですから〜」
「・・・あ、あぁ」
そして、コルテックスは会議室から立ち去っていった。
「・・・5時か・・・」
政治の絡みが生じるので、周りにいた議員達から話の内容を聞くことには抵抗があった狩人。
仕方が無いので、作業部会で直接聞いてみることにした。
・・・その際、
「あれ・・・今、テレサ様、普通にお喋りになっていなかったか?」
「キャラクター作りの一環ですよ。恐らくね」
「やっぱりそうなのか・・・?」
と、議員たちがテレサの噂をしていたのだが、コルテックスも狩人もそれ気づくことは無かった・・・。
そして、時間になり、妙に視線の鋭い官僚たちが集まった少し小さめの会議室で、作業部会が始まる。
・・・開始早々、
「では、エリザベス様、要件をお願いします」
「ちょっ・・・えっ!?」
議長役の男性から、いきなり話を振られる狩人。
どうやら、狩人が何かを言わなくてはならないらしい。
・・・周りの人々の表情を見る限り、少なくとも、面白いことを話さなくてはならない・・・といった類いの話ではないようである。
時間がなかったので、申し訳ないが小分けにするのじゃ。
・・・そんなことよりじゃ。
まさか、主殿よ・・・妾の話を本当に省略するわけじゃあるまいな?




