14.1-33 レストフェン大公国29
テレサが学生たちを追い払ったその日、一行はどこかへと外出することなく、大人しく地下空間で次の日を待った。というのも、もしもの場合の保険とも言うべき言霊魔法を、テレサが一瞬にして使い切ってしまったので、再度使えるようになる翌日まで待たなければならなかったからだ。その他、テレサがやってきた事で衣食住に必要な道具が足りなくなったので、それらを追加で作る必要があったことも、外出しなかった理由の1つである。……テレサの言霊魔法による影響ではない。
その夜、地下の新居で食事を摂りながら、テレサはワルツたちと、当然とも言うべき会話を交わす。
「お主らのことを皆が心配しておるのじゃ。コルテックスなどは大陸全土に捜索隊を出すほどにの。せめて連絡くらいは入れても良いのではなかろうか?なぜ連絡せぬ?」
仲間たちに対して何も言わずにミッドエデンを去ったのはどうしてなのか……。ミッドエデンにいる者たちが同じように抱えているだろう疑問を、テレサはワルツたちに向かって投げかけた。
対するワルツは「あー」と言って、とても苦々しげな表情を浮かべた。何か連絡しにくい理由があるといった様子だ。
もう一方のルシアも「えっとね……」と言いつつも、その先の言葉が出てこなかった。やはり彼女の方にも連絡できない理由があるようだ。
そんな2人の様子をジィッと見つめたテレサは、深く溜息を吐いて、こんな推測を口にする。
「……差し詰め、ワルツの方はその姿をコルたちに見られたくないから、という理由かの?あるいは、連絡のタイミングを見失って、連絡するのが億劫になったか……」
「っ?!」ビクッ
「……ア嬢の方は、アルなんとかとの関係が明らかになって、そっとしておいて欲しいと思ったのか、他の者たちから向けられる視線が気になったのか……そんな感じじゃろ?」
「な、なんで分かんのさ?!」
「まさか、そんな魔法が——」
「2人とも顔に書いておる」
とテレサが口にすると、ワルツもルシアも慌てて自身の顔に手を当て、額を擦り始めた。
「いや、物理的に書いておるわけがなかろう?まったく……姉妹揃って何をやっておるのか……」
テレサが呆れ気味に溜息を吐いた後、その場に沈黙が訪れる。それまで、とても良い笑みを浮かべながら夕食を頬張っていたアステリアやジョセフィーヌさえも食事を摂るのを自重するほどに、場の空気は重くなった。
そんな空気を壊したのは、話題を切り出したテレサ本人だった。
「……本来なら連絡するのが筋というものじゃが、連絡した結果、コルたちがこっちに来ないとも限らぬ。妾とて鬼ではないのじゃ。ア嬢の考えに整理が付くまでなら、待っても良いのじゃ」
「……えっ?」
「ただし、条件がある」
テレサのその言葉に、ワルツとルシアはゴクリと喉を鳴らした。いったいどんな条件を飲まされるのか……。テレサの性癖(?)を知っているワルツも、普段からテレサの事を虐げている(?)ルシアも、テレサに弱みを握られることがどれほどに恐ろしい事なのかを想像して、手に汗を握った。
そんな2人から向けられる批難と恐怖の視線に気付かない様子で、テレサは目を瞑って腕を組みながら、2人に向かって条件を告げた。
「妾に機動装甲を作ってはくれぬかの?」
「「……は?」」
あまりに予想外の発言を口にするテレサを前に、ワルツもルシアも同時に固まった。




