14.1-31 レストフェン大公国27
テレサが地上にあった仮設の建物の扉を開けると、そのタイミングを狙ったかのように矢が飛んできた。飛んできた矢は、まるで絵に描いたような美しい直線を描いて、テレサの額にブスリと突き刺さる。
……が、その程度で傷つくテレサではなかった。接着剤か毒物か、何が塗られているのか分からないが、何やら粘つく矢を額からスポッと取り除くと、それを地面に叩き付けて踏みつけ……。そして、玄関扉の向こう側で自分に向かって敵意を向けていた者たちに向かって、抗議の声を上げた。
「誰じゃ?!妾に矢を放ったのは!」
建物の外には、弓や剣、あるいは杖らしきものを持った若者たちが詰めかけていた。そこに村人たちと思しき者たちの姿は混じっておらず、皆、家の中に避難しているようだ。
テレサに向かって矢を放ったのは、その若者たちの1人だったらしい。ただ、どういうわけか若者たちは、ほぼ全員が、テレサに向かってまるで恐ろしいものでも見たかのような視線を向けていたようである。その理由が分からなかったテレサは、若者たちが何を怖がっているのかと首を傾げながら周囲を見渡すが、特に脅威を感じるようなものはなく——、
「お主ら、何を怖がっておる?」
——そう言って若者たちに向かって問いかけた。
その直後だった。若者たち——同じ制服を着た学生たちの中から、声が上がったのは。
「ば、化け物だっ!」
「はあ?」ビキビキ
いきなり化け物呼ばわりとは失礼極まりない……。テレサは不満を隠さず、自分の事を化け物呼ばわりした学生を睨み付けた。するとと、今度は他の学生からも——、
「な、なんだ?!あいつは……」
「矢を頭に受けたのに平然としてるなんて……」
「信じられない……」
——いっせいに似たような声が上がる。
その声を聞いたテレサは、学生たちが何に対して恐怖しているのか理解した。結果、テレサは何を考えたのか——、
「あ、あー、痛いのー、痛いのじゃー?」棒
——額を押さえながら痛いことを主張し始めた。
しかし、効果は皆無だったらしい。テレサのその反応を見て、むしろ学生たちはより警戒を強めたようである。皆、各々の武器を握りしめ、殺意が籠もった視線をテレサへと向け始めた。
「……仕方ないのう。ここに来ていきなり魔法を使うことになるとは思わなかったのじゃ」
テレサは何かを諦めたかのように大きく溜息を吐くと、おもむろに和服の袖の中に手を入れた。そして、その中から赤い宝石の付いた指輪と、コルテックス印の拡声器を取り出した。
彼女のその行動を見た学生たちは、皆、一斉に警戒を強めたようである。弓や杖を使って攻撃してくる者までいたようだ。
しかし、テレサには一切効かない。ルシアから普段受けている所業に比べれば、そよ風のようなものだった。テレサは飛んでくる矢や魔法を一切気にする事なく、指輪を身につけた。
彼女が身につけた指輪は、魔力ブースト用の魔道具。指に付けた途端、テレサの尻尾の数が一気に増える。
そして彼女は拡声器を構えてから、ふと考え込んで……。何かを思い付いたのか、人の悪い笑みを浮かべると、拡声器を越しにこう言ったのである。
『同じデザインの服を着たお主らに告げる!《今から家に帰って、1年ほど引きこもり生活を始めるが良い!》』
と。
言霊魔法の悪y——効果的な使い方なのじゃ。




