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14.1-29 レストフェン大公国25

「……まさか、ワルツ?」


「この姿で会うの、今回が初めてじゃないから分かるでしょ?」


「やはりワルツだったのじゃな……。では、遠慮無く。ワルツっ!」ドゴッ「フベッ?!」


 幼女形態(?)のワルツに気付いたテレサは、その内に眠る欲望をさらけ出して、両腕を広げてワルツに抱きつこうとした。しかし、その手がワルツに届く直前、彼女は地面に吸い込まれるように伏せてしまう。地面に向かってボディープレスをするように、だ。しかも、地面では岩がむき出しの状態。結果、テレサはまるで潰れた蛙のような鈍い悲鳴を上げた。


 彼女が地面に沈むのは今回が初めてではない。これまでにも、彼女はワルツに抱きつこうとして、ワルツ自身に何度も叩き落とされてきた。しかし、今回はワルツに叩き落とされたわけではなかったようだ。今のワルツには、機動装甲が無く、極度に大きな重力制御が出来ないからだ。


「ちょっと、テレサちゃん?節操って言葉、知ってる?」


 テレサを叩き落としたのはルシアだった。重力制御魔法を使って、テレサの周囲にだけ超重力を掛けたのだ。


「せ、節操じゃと?信念を固く守って変えないことじゃろ?そう言う意味でなら、妾以上に節操を貫いておる者もいないと思うのじゃ。なにせ、ワルツ一筋なのじゃからのう」


「あれ?節操ってそう言う意味だったっけ……じゃなくて、そんなことどうでも良いから、お姉ちゃんを襲うの止めてよね」ドゴッ


「フベッ!」


 超重力の中でかろうじて顔を上げて抗議していたテレサだったものの、ルシアによって追加された超重力には抗えず、勢いよく地面に沈んでいった。


 そんな3人のやり取りを端から見ていた人物——レストフェン大公国の大公ジョセフィーヌと、狐の獣人の少女アステリアは、戸惑いが隠せない様子で目を丸くしていたようだ。なにしろ、急に知らない人物が転移(しょうかん)させられてきたかと思ったら、突然、彼女に対して暴行(?)が始まったのである。ワルツたちの関係を知らない2人にとっては、テレサが虐められていたように見えていたに違いない。


 そんな2人の様子に気付いて、ルシアが説明する。


「えっと……驚かせてごめんなさい。この人はテレサちゃんっていう……まぁ、私のお姉ちゃんみたいな人だよ?」


「…………」ぞわぞわ


「何かあったときに役立つ魔法が使えるから呼んでみたの」


「……ア嬢。お主、妾のことを道具か何かと一緒にしておらぬかの?っていうか、どうやったら妾のことだけをピンポイントで召k——」


「テレサちゃんは黙ってて。話が拗れるから」


 ルシアがぴしゃりと言い放つと、テレサはムッとした表情のまま、再び地面に顔を伏せた。話が拗れるという発言自体に反論するつもりは無かったらしい。


 対するジョセフィーヌとアステリアの顔からは、ルシアの説明を聞いても、戸惑いの色が消えることは無かった。ただ、ルシアとテレサの仲が良いことだけは理解出来たようだ。文句を言いつつもルシアの発言に従うテレサの姿を見る限り、仲が悪いようには思えなかったのだ。


 ただ、あまりに酷い扱いを受けているというのに、テレサがルシアの発言に従う姿は、アステリアの目には少し歪に見えたようだ。結果、彼女は、ルシアに向かって、こんな問いかけを向けた。


「あの……ルシア様?この方も獣人のようですが……もしやルシア様の奴隷ですか?」


「ちょっ?!んな訳なかろう!」


「あー、奴隷ではないかな。テレサちゃん、一応はお姫様だし。あ、()お姫様ね?」


「「えっ」」


「でも、どこのお姫様なのかは言えないから聞かないでね?テレサちゃんも言わないでよね?私たちもまだ、どこから来たって説明してないから」


 ルシアの言葉を聞いたテレサは、しばらくの間、じっと考えるように顔を伏せた。そして数秒後——、


「……その言い分じゃと、この御仁たちは、妾たちの国を知らぬということかの?ということは、ここは大陸の外か……」


——テレサはルシアの発言から、自分たちが今どこにいるのか、おおよその推測を立てたのである。


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