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14.1-23 レストフェン大公国23

 ジョセフィーヌの問いかけに対し、ワルツは返答するか否かを悩んだ。ワルツとしても、ポンプについてどこまで語るべきか決めかねていたのだ。


 その一方で、ワルツはポンプについて情報公開してもいいのではないかとも考えていた。見返りだ。ポンプのことを教える代わりに、自動杖について情報を貰えるなら、ワルツとしては万々歳。ポンプについての知識がレストフェンに渡ったとして、それが世界のバランスを大きく変えるものとは到底思えなかったことも、情報公開について前向きだった理由と言えるだろう。


 結果——、


「そうねぇ……自動杖について情報開示してくれるなら、ポンプと自動杖を使ったアイディアとか……ポンプ以外の機械製品についての情報を開示しても良いわよ?」


——ワルツは交渉することを決める。ジョセフィーヌの反応を見る限り、勝ち目はあると思ったらしい。


 しかし、ワルツの予想とは裏腹に、ジョセフィーヌのノリはあまり良くなかった。むしろ、眉を顰めてしまうほどに表情が険しくなる。


「(……コミュ障の私じゃ、やっぱり無理なのかしら?それなりに経験を積んで、コミュニケーションLvを3くらいに上げたつもりだったんだけど……)」


 コミュニケーションLv.3(?)のワルツが不安に駆られていると、ジョセフィーヌが口を開いた。


「申し訳ないですが、先ほども申し上げたとおり、私の口からは何も言えないのです。自動杖についての情報は私にすら開示されていませんので。ただ——」


「「ただ?」」


「学院で杖の開発に携わることが出来る学科への入学は手引き出来るかと思います。もちろん、技術をお教え下さったら、という条件付きですが」


 ジョセフィーヌのその言葉を聞いたワルツは、頭の中で彼女の言葉を吟味した。その結果、いくつかの懸念点が浮かび上がってくる。


「……それ、学院にいる間に、私たちから技術を絞り出そうって魂胆じゃないわよね?」


「あ、なるほど……。その考えには至りませんでしたが、そのつもりはありません。尤も、マスターワルツとマスタールシアが自ら情報を漏らせば話は別ですが」


「(マスタールシア……。あまり可愛くはないかなぁ……)」

「そう……。ちなみに、入学するのは私だけ、あるいはルシアだけ、ってことは無いわよね?」


「もちろん、お二人共です。ただ、儀式的に入学試験は受けて頂くことになると思います」


「入学後に思った通りの研究室に配属されない可能性は?」


「学科を間違えなければ、あとは自由に研究室を決められるはずです。中央魔法学院はレストフェン大公国における最高学府。優秀な学生ばかりが集まってくる学び舎ですから、国の宝たる優秀な学生は、自ら望んだ分野の研究が出来るべき、という教育方針があるのです」


「「ふーん」」


 一通り聞いて疑問点・懸念点は払拭できたのか、ワルツもルシアも納得した様子だった。


 ……いや、ルシアにはもう一つだけ懸念があったようである。


「ちなみにだけど……いや、聞かなくても何となく分かるけど、獣人の扱いって、やっぱり酷い?」


「……申し訳ございません。マスターr——」


「いや、ルシアって呼んで」


「ルシア様」


「様もいらないけど……まぁいっか」


「獣人を毛嫌いするというのは、この国だけでなく、この大陸の人族の歴史の中で古くから続いてきたことなのです。人々の中に根付いたものですから、こればかりは私の力でもどうにもなりません……」


「そっかぁ…………あっ」


 ルシアは何かを思い付いたようだ。どうやら彼女の中に、人々が獣人を毛嫌いしなくなるような妙案が浮かんできたらしい。


 結果、ルシアは、ジョセフィーヌに対して、こう問いかけたのである。


「じゃぁ、もう一つ。入学する人をもう1人……いや2人、増やしても良いかなぁ?」


 そう言って目を細めるルシア。その表情は何かを企んでいるようだったが、ジョセフィーヌがその含みのある笑みに気付いたかどうかは不明である。


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