14.1-20 レストフェン大公国20
「……何?興味あるの?」
急に真剣な眼差しを自分たちに向けてきたジョセフィーヌに対し、ワルツは問いかけた。ワルツとしては、ミッドエデン以外の者たちに対して、あまり無闇矢鱈に技術的な情報開示をしたくなかったようだが、ジョセフィーヌがここに来る事になった原因を作った手前、彼女には申し訳なく思っており……。ジョセフィーヌが望むなら、技術をチラ見させる程度には見せても良い、と考えていたようである。
対するジョセフィーヌは、ワルツの問いかけに即答する形で——、
「是非」
——と首肯した。彼女の瞳に迷いはない。水用ポンプを完全にロックオンしている様子だ。
「んー、でもまだ完成じゃないのよね……。モーターを作らなきゃならなかったり、電線や発電機を作らなきゃならなかったりするし……」
「もーたー?でんせん?はつでんき?」
「そっか。貴女たちには全部呪文の言葉に聞こえるわよね……」
魔法はあっても工学的な技術は発展していないこの世界において、現代世界の単語を使ったところで伝わるわけがない……。ミッドエデンでは皆が理解していたためか、ワルツはついつい基本的なことを忘れていたようである。
そしてワルツの講義が始まった。その際、ワルツの側には、いつの間にかアステリアの姿があって、彼女も一緒にワルツの授業を受けることになったようである。
◇(30分後)
「……ってことなのよ。磁石と磁石を近づけると反発する力を使って、このモーターって部品が回るの。分かる?」
「なるほど……」
「あわわわ……」ぷるぷる
ワルツの講義を聴いていた生徒たちの反応は2つに別れていた。それも真逆の方向に。
ジョセフィーヌは元々見識があったためか、ワルツの講義をすんなりと受け入れいている様子だった。だが、アステリアの方は、かろうじて文字が読み書き出来る程度の知識しか持ち合わせていなかったためか、ワルツの授業が進めば進むほど混乱してきたらしく、物理的にフラフラと揺れ始めていたようである。
そんな2人の内、劣等生の方に、ワルツは問いかけた。
「アステリア、ちゃんと理解出来てる?」
「…………」しーん
アステリアが急に静かになる。
「……アステリア?」
ドンッ!!
「申し訳ございません!マスター!わかりません!」
「でしょうね……」
机に両手を突いて、頭を机に叩き付けながら謝罪するアステリアを前に、ワルツは苦笑を浮かべた。大体、予想通りの展開だったらしい。
「まぁ、本気で学びたいのなら説明を聞いていても良いけど、強制はしないわy——」
「いえ!頑張って理解します!理解しますから教えて下さい!」
「そこまで言うなら止めないけど……。でもまぁ、頑張る事ね」
そう言って目を細めるワルツに対し、今度はジョセフィーヌは問いかけた。
「……マスターワルツ。もしよろしければ1つ聞かせて貰いたいのですが……」
「……マスターワルツって何?」
「師をマスターと呼ぶのは普通のことでは?」
「師って……まぁ、いいけど……」
「では、お聞きしますマスター。もしやマスターは、見た目通りの年齢ではなく、どこかの学舎で教鞭を振るわれていたのですか?」
ジョセフィーヌに問いかけられたワルツは、今の自分がどういった背恰好をしているのかを思いだした。そんな自分が、背の高いジョセフィーヌに対して説明しているというこの状況が、端から見るとどう見えるのかを想像して——、
「……おっほん。私はただの町娘よ!」ドヤッ
——彼女は改めて自分がただの町娘である事を突き通すという覚悟を決めたようである。まぁ、手遅れ感は否めないが。




