14.1-18 レストフェン大公国18
「……パンって、こんな色をしていましたっけ?もう少し黒かったような……」
「そりゃパンって言ったらね?」
「白くてふっくらしてるものだよ?黒?それパンじゃなくてライ麦パンか何かじゃないかなぁ?」
「パンって焼いたら、こんなキツネ色にこんがりとしましたっけ?」
「普通でしょ」
「トースター作るの大変だったんだよ?焦げないようにヒーターとパンとの距離を調整するの、すっごく難しかったんだから」
「あと、中に挟まってるこれってなんd——」
「つべこべ言ってないで、ささと食べなさいよ」
「ほら、アステリアちゃんみたいにさ?食べれば分かるから」
「うみゃぁぁぁ!!はむっはむっ!」ガツガツ
自宅に戻り、アステリアがBLTサンドを作って、そしてワルツたちはそれを4人で食べていた。内、ジョセフィーヌだけは、初めて真っ白なパンや、トースター、あるいはベーコンというものを見たせいか、酷く警戒していて……。彼女だけがBLTサンドに手を付けていなかったようである。まぁ、アステリアの方も、昨日の晩、白いパンのレシピを教えて貰って作って食べたのが初めてなので、白いパンに慣れているかというと、微妙なところではあるが。
「ほら、毒は入っていないから、騙されたと思ってさ?」
「お姉ちゃん……その言い方はちょっとどうかなぁ、って思う……」
「…………」
ジョセフィーヌは自分の口よりも大きなBTLサンドを両手で持ちながら、ジッと固まっていた。とはいえ、毒が入っているかも知れない事を疑っていたわけではない。大公として生きてきた彼女にとって、BLTサンドどころか、素手で料理を掴んで食べるという行為自体が初めての事だったからだ。
「いつものプチプチとした小さなものが入って——」
「おっと!その話は無しよ?」
「あー、まさか虫が主食とは思わなかったよね……。一瞬、本気で国に帰ろうかと思っちゃったよ」
「……はむっ」
BLTサンドから立ち上る香ばしい匂いに耐えきれなくなったのか、ジョセフィーヌは決心を決めて、初めてのBLTサンドを口にした。
その瞬間、彼女の動きが固まる。それも、まるで、時間をピタリと停止させたかのように、だ。
「「「……?」」」
ジョセフィーヌは固まっていったい何をしているのか……。ワルツとルシア、それにアステリアが不思議そうにジョセフィーヌを見つめていると——、
「!」はむっはむっ
——突然、ジョセフィーヌが加速して、BLTサンドを頬張り始めた。それも、喉を詰まらせるほどの勢いで。
「うぐっ?!」ドンドンドン
「あー、喉を詰まらせたのね……。そりゃそうよね。そんな速度で食べてたら……」
「はい、お水」
「!」ごくっごくっ「ふぅ……ありがとうございます」
と、ジョセフィーヌは一息ついてから——、
「…………」はむっはむっ
——口の周りを汚しながら猛烈な勢いでBLTサンドを頬張るアステリアとそう大差の無い勢いで、再びBLTサンドを口にし始める。
そんな彼女が人生初のBLTサンドを食べてどう思ったのかは定かでないが、彼女の顔に浮かぶ真剣な表情と、止まらない咀嚼がすべてを物語っていると言えるだろう。むしろ、これで不味いと言い始めた暁には、ワルツたちはどう反応して良いのか分からなくなっていたに違いない。
そして——、
「……大変美味でした」
——ジョセフィーヌは満足げにそう感想を口にしたのである。尤も——、
「うみゃぁぁぁ!!」
——と、言いながら2つ目のBLTサンドを頬張るアステリアを見ている内に、その表情も段々と曇っていき……。うらやましそうな表情に変わるまでにそう時間は掛からなかったようだが。
こうしてジョセフィーヌは、結局、おかわりを重ね、3人前のBLTサンドを食べることになったのであった。
ベーコン、レタス、タマゴ——BLT。
ベーコン、レタス、トマト——BLT。
ベーコン、レタス、チーズ——BL……BLC!
Eggは無いのじゃ。




