14.1-15 レストフェン大公国15
「マスター、ですか……」
ワルツたちについての説明を求められたアステリアはどう答えるべきか悩んだ。見た目は小さいのに年上だというワルツと、強大な魔力を持ったルシアの両方ともについて、アステリア自身もどんな人物なのかよく分かっていなかったのだ。
ゆえにアステリアは、こう答えざるを得なかった。
「マスターの詳細については、直接本人にお伺いするのが良いと思います」
「そう……。そうよね。奴隷が主のことを勝手に説明するわけにはいかないわよね……」
「いえ、私たちは奴隷ではありません」
「……えっ?」
「それに、説明することを禁じられているわけではなく、詳しく知らないので説明が出来ないのです。マスターたちに拾われてから、まだ3日しか経っておりませんし……」
「えっ」
アステリアたちに出会ったのも3日前。この地下空間ができたのも3日前。まるで、どこからか降って湧いた"マスター"が暗躍しているかのようで、ジョセフィーヌは困惑が隠せなかった。
大公である彼女はこの国レストフェン大公国における様々な噂話を知っているつもりだった。敵国の首都を一瞬で焦土に変えたという伝説の魔法使いの話や、ドラゴンを一人で狩ったという狂戦士の話、あるいは、見るものすべて食い殺すという見た目が小鳥のような凶悪な魔物の話などなど……。ジョセフィーヌは立場的に様々な伝説や噂無しを耳に挟むことが多かった。
そんな彼女だからこそ、国の中に異常な魔力を持った人物が入国してくれば、すぐに小耳に挟むはずだった。強大な魔力を持っている人物を国の中に野放しにしておけば、それだけで国の存亡に関わる大問題なのだ。その上、強大な魔力を持っているということは、必然的に他国の重鎮か、特別な機関に属している者か、あるいは冒険者だとすれば相当高ランクの人物ということになるので、国としては歓待するというのが当然の対応なのだが、現状、そのような人物が国内にいるという報告は聞いておらず……。アステリアの話を鵜呑みにするなら、ジョセフィーヌとしては、"マスター"が本当に降って湧いたとしか思えなかったようだ。……まぁ、実際そうなのだが。
いったい"マスター"とは何者なのか……。警戒心を抱きつつ、ジョセフィーヌはアステリアに対し問いかけた。
「……奴隷呼ばわりして申し訳ございませんでした。その……マスターという方にお会いすることは出来るのでしょうか?」
「えっ?あぁ……実は……ジョセフィーヌ様が家から抜け出してからというもの、ずっと付いてきているのですが……」
「……えっ」
アステリアの話を聞いたジョセフィーヌは、ハッとした様子で周囲を見渡した。すると、近くの物陰の背後から、獣耳を2本だけ出して、ピコピコと動かしている何者かの姿が目に入ってくる。
「あそこにいるのは……ここに住んでいる他の獣人の方ですよね?」
「いえ、アレがマスターの1人です。多分、もう1人も隣にいるのではないかと……」
ジョセフィーヌが獣耳をじぃっと見つめていると、その2本の三角形は、恥ずかしそうにゆっくり物陰に沈んでいった。どうやら、隠れている事がバレて耳を引っ込めることにしたらしい。
ジョセフィーヌが物陰をさらにじぃっと見つめていると、物陰の方が騒がしくなる。あーでもない、こーでもないと、何かやり取りを始めたようだ。そして、たっぷり30秒ほど経って——、
「もう、出るしかないよ!お姉ちゃん!」ガッ
「あっ?!ちょっ?!待って!!」
——少女2人組が出てくる。
その姿を見たジョセフィーヌは、驚き半分、納得半分な表情を浮かべていた。何しろ、彼女が意識を失う前の記憶は、その2人の姿を最後に途切れていたからだ。少女たち2人組が、自分を昏倒させてこの空間に連れてきたとすれば合点がいき、そして彼女たちがこの場所を作ったとすれば、それはそれで驚愕に値する……。それが何とも複雑な表情として、ジョセフィーヌの顔に浮かんできていたようだ。
ア嬢の頭でモグラ叩きをしてみt——ブゥン




