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14.1-13 レストフェン大公国13

「……とりあえず、えいっ!」ドゴォッ!


「えっ?!ちょっ?!ルシア?!」


「うん?あぁ、今のはただの回復魔法だよ?」


「……紛らわしいわね」


「でも、効いてないみたい。身体に怪我を負ってるとか、病気になっているとか、そう言う理由で気を失ったわけじゃないんだと思う。なんか目の下に隈みたいのが出来てたから……やっぱり、寝不足とかじゃないかなぁ?こんな感じで廊下に倒れてるテレサちゃんのこと、よく見るし」


「あ、うん……そう……。まぁ、とにかくこの場は離れた方が良さそうね?」


「どうする?この人。連れてく?」


「そうねぇ……このまま放置するのもどうかと思うし、それに顔を見られているし……最悪、脳血管が破れていたりしたら取り返しの付かないことになりそうだし……」


   ザワザワザワ……


「……!みんな寄ってきたよ?!」


「……仕方ないわ。布を買って帰る予定だったけど、今日は諦めて……あ!そうだわ!この天幕を持って帰るわよ!これだけあれば、かなりの量の布団が作れるでしょ。この人のことも、剥ぎ取った天幕に丸めてくるんで連れて行くわよ!そうすれば誰かに見られることは無いはずだし……」


   ガサゴソ……


 ……この日、レストフェン大公国から大公が誘拐されるという前代未聞の大事件が起こる。それも、50人に迫る近衛騎士たちと、300人を優に超える兵士たち、そして幾ばくかの学生たちが皆、何者かに無傷のまま昏倒させられた上で。


 後に、意識を取り戻した近衛騎士たちは、取り調べに対し、口々にこう答えたのだという。


『2人の女の子たちに回復魔法を食らって意識を失った』


 まさに、レストフェン大公国の歴史に大きな1ページが加わった瞬間だった。……それも真っ黒な色のページが。


 そしてその出来事と共に、町を囲っていた堀は、まるで最初から幻か何かだったかのように消え、近くにいたグラウンドバイソンたちや、地中に隠れていた"大物"も姿を消して……。公都は破滅の危機から脱したのである。


 その際、公都では、こんな噂が立ち上ったようだ。……大公殿下が自ら、人身御供になったのではないか、と。


  ◇


「……うぅ……」


 ジョセフィーヌ=フロイトハートが目を覚ますと、そこは所謂見知らぬ天井だった。


「…………」


 頭がボーッとしてどうにも視点が定まらない中で、彼女が周囲を見渡すと——、


「あっ、目が覚めたようですね。お身体は大丈夫ですか?」


「……獣人……?」


——心配そうに彼女の顔を覗き込む獣人の少女の姿が目に入ってきた。全身を黒い毛に覆われた白髪の獣人の少女である。


 自身が知っている獣人とは随分と毛色が異なり、美しい毛並みと整った顔立ちをしている彼女に向かって、ジョセフィーヌがボンヤリとした視線を向けていると、その獣人の少女は、心配した様子で問いかけてきた。


「あなたはご自分が何者か分かりますか?」


「私……私は……ジョセフィーヌ」


「どうしてここにいるのか覚えていますか?」


「……分から——」


 分からない、と答えようとした途端、ジョセフィーヌの目がカッ、と見開かれる。


 次の瞬間、彼女は、どこかで見たことのある色の布団を撥ね除け、ベッドから飛び起きると、獣人の少女の制止を振り切って、部屋から飛び出し、そして家の外へと走り出た。


 ……そこで彼女は立ち止まった。空、と言うにはあまりに低い天井に浮かぶ眩い太陽と、天井を支える何本もの柱、そして近くを流れる川の姿を目の当たりにして、彼女はあらん限りに目を見開く。


「ここは……どこ……?」


 ジョセフィーヌから見ると、そこは箱庭だった。外から隔離されたテラリウム。そんな場所に連れて来られたことを察したジョセフィーヌは、その場に膝を突いて、座り込んで……。そして手を伸ばせば届きそうな場所にある人工の太陽を眺めながらこう呟いたのだ。


「綺麗……」


 と。


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