14.1-11 レストフェン大公国11
彼女がいた天幕にやってきた2人組みの少女たちは、おそろいのカチューシャを頭に付けていた。顔の作りは決して似ておらず,髪の色も異なっていたものの、カチューシャがあったせいか、大公ジョセフィーヌには2人の姿が姉妹のように見えていたようだ。
そんなジョセフィーヌは、給仕たち2人組に向かって、なぜか厳しい表情を向けていた。目の下には寝不足のためか隈をつくり、多少痩せこけているように見えていたジョセフィーヌの姿は、まるで病んでいるかのよう。そんな彼女から睨まれるように視線を向けられた給仕たちは、びくりと肩をふるわせて、天幕の入り口付近で立ち止まることになる。
まるで怯えように自分を見つめてくる給仕たちの姿を見て、ジョセフィーヌは自身の失態にすぐに気がついた。
「あぁ、ごめんなさい。怒っているわけではないの。むしろ申し訳なくって……」
ジョセフィーヌはそう口にしながら、眉間に指で揉んで、刺々しかった雰囲気を抑え込んだ。その様子を見ていた給仕たちは、ホッと安堵した様子で、この天幕に入ってくる前に持たされた食事を渡そうと、ジョセフィーヌがいた机に向かって近付いていく。
「ごめんなさいね。こんな大公で……」
「「えっ?」」
「本当ならあなたたちくらいの年齢の子どもは、今頃お友達や皆と遊んでいるはずなのに、私が不甲斐ないせいで巻き込んでしまって……」
「……こちらこそごめんなさい」ぼそっ
「?!」びくぅ
「……えっ?」
「あ、いえ何でもありません。大公様のことを応援していますので頑張ってください」
「……」ホッ
「ふふっ……ありがとう」
腰まで届く金色の長髪をもった給仕から激励された大公は、嬉しそうに笑みを浮かべた。そんな彼女の笑顔には、嘘偽りの類いは無く、どこまでも素直な笑みだった。
その笑みを向けられた給仕の少女は、どういうわけか酷く申し訳なさそうに肩を落とした。それから、大公の前だというのに、頭一つ分低いもう一人の給仕に問いかける。
「お姉ちゃん、これ、ちょっと申し訳なさ過ぎるんだけど……」
「ちょっ……ルシア?!ここで言うことじゃないって!」
どうやら背の低い少女の方が姉らしい。
大公の前で急に私語を交わし始めた給仕たちに対し、護衛の騎士が苦言を——、
「大公の御前である。用事が済んだならここから立ち去r——」
「この人にちょっと話があるから、黙っててくれるかな?」
——苦言を呈しようとした、その瞬間——、
ズドォォォォン!!
——苦言を口にしていた騎士が、目に見えない力を受けて吹き飛んで、天幕を突き破り、そのままその向こう側に消えていく。
その途端、他の騎士たちも剣を抜く。……が、剣を抜いて給仕(?)に対して敵意を向けた瞬間——、
ズドォォォォン!!
ズドォォォォン!!
ズドォォォォン!!
——と全員がその場から姿を消した。
「んなっ?!あ、あなたたちは?!」
「ただの町娘です」
「この空気の中でよくその台詞が言えるわね……」
一方の少女の方は、終始挙動不審だったが、もう片方の少女の方に迷いの色は見られなかった。そして目に決意を宿した少女は、頭に付けていたカチューシャを外したのである。
その途端、三角形の耳が現れる。それは獣人である事の証。給仕——ルシアは、その耳をピンッと立てながら、目を丸くする大公に対して、問いかけた。
「この町の人は、いったい何を考えているの?魔物に襲われそうになってる獣人の人たちや、私や、それにお姉ちゃんのことを助けずに見殺しにしようとしてるとか、ちょっと頭おかしいとしか思えないんだけど?」イラッ
ルシアの問いかけには明らかに怒気が含まれていた。そもそもこの町を深い堀で囲ったことからして怒りの行動。彼女はこの場で国のトップに事情を問いかけて、白黒を決めるつもりだったようである。




