14.1-09 レストフェン大公国9
2人は慌てて、路地を駆けた。その際、偶然通りがかった兵士を——、
「……!お前たちここでなn——」ドゴォッ!!「ごぇはっ!」
——ルシアが回復魔法で昏倒させていく。
「回復魔法って、便利ねぇ……」
「カタリナお姉ちゃんに教えて貰ったんだよ?グーでパンチするときに、手に回復魔法を纏わせておけば、自分の手も傷つかないし、エンデルシア国王様も傷つかなかった、って」
「カタリナ……何を教えてるのよ……っていうか、なんでエンデルスのことを殴っているのよ……」
路地裏を走りながらワルツが眉を顰めていると、通路の突き当たりが妙に明るくなっている様子がワルツたちの目に入ってくる。どうやら、比較的大きな広場のような場所になっているらしい。
「大通り……かなぁ?」
「広場って可能性もあるわよね。私たちとしては、買い物さえ出来れば良いんだけど……。店、あるかしら?」
ワルツたちが買いたいものは、布と糸、綿、それに調味料である。大量に布と糸があれば当面の衣服が作れ、綿があれば布団と枕が作れ、そして調味料があれば食事をアステリアに作ってもらえるからだ。それ以外のものについては、時間を掛けることで自給自足できそうだった。あともう一つ、ワルツ個人としては、せっかく町に来たので、自動杖の調査もやりたかったようである。
問題は、戒厳令が引かれた町の中で店が開いているのかどうか。先ほど、別の通りをチラリと見る限り、大人の町人たちは普通に歩いていたので、一般の店もやっている可能性もゼロではなさそうだったが、閉店している可能性もまたゼロではなかった。確かめる方法はシンプル。店を見つけて、直接、覗いてみれば良いのだ。
「まぁ、ダメだったらダメだったで、別のプランを考えればいっか。今は、この町を観光するくらいの軽い気持ちで歩きましょ?」
「うん。……あっ。やっぱり、広場になってるみたいだね」
ワルツとルシアが路地を歩いて行った先は、かなり開けた場所だった。というのも、そこは正面入り口の前の空間。メインストリートと言える場所だったのだ。
そこには、数多くのテントが設置されていて、兵士たちが荷物や武器、あるいは書類の束を持って出入りしていた。特設の司令部、といったところだろうか。町の中央部に位置する大きな建物に、"大公"が住んでいるはずだが、正門までは相当の距離があるので、門近くまで司令部を移動してきたのだろう。
「あっちゃー。逃げる方向、逆だったみたい。戻ろっか?」
「んー……」
「うん?どうかしたの?ルシア」
「路地裏を私たちだけで歩いてたら怪しまれるけど、大通りを堂々と歩いてたら、逆に大丈夫なんじゃないかなぁ?」
「どうしてそう思ったの?」
「だってほら、見て?所々に私くらいの子がいるみたいだし……」
ルシアが言った通り、兵士たちに紛れて、ルシアと同じくらいの子どもが歩き回っていた。ただ——、
「あれ、学生じゃん」
——彼らは、この国にあるという学院の制服を着ていたようである。町の窮地に駆り出されたのだろう。
「服が破れちゃったからこの恰好でいる、って言ったら、どうにか納得してもらえないかなぁ?」
「いやー……ちょっとその言い訳は……んー……」
果たして言い訳として通るのだろうか……。ワルツが考え込んでいると——、
「ん?お前たち。学生か?」
——2人は早速、兵士に見つかり、声を掛けられたのである。
11月なのじゃ。
……11月なのじゃ。




