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14.1-08 レストフェン大公国8

「へへへへ……。町に入ってやったわ……!」

「お姉ちゃん、嬉しいのは分かるけど、その笑い方だと怪しまれるよ……。あと、その恰好もどうかと思う……」


 ワルツとルシアの姿は、町の中にあった。町の外で人工太陽を爆発させて、皆がそちらの方に注意を向けているその隙に、町の中に侵入したのだ。具体的には、堀の底まで穴を掘ってから、人工太陽を爆発させ、堀の底を走って越えて、そして再び地中を掘って、町の中に侵入する、という方法で。流石に塀の上をジャンプして越えるというのは、人工太陽の陽動を使ったとしても、見つかるリスクが高すぎると考えたらしい。


 ワルツたちが侵入したのは、壁からほど近い路地裏。そこに運良く木箱が置かれており、家の壁と木箱の隙間に穴を開けて、身体を滑らせた。そして2人は何食わぬ顔で、路地を歩き始める。


 獣人であるルシアは、ローブを纏って、耳と尻尾を隠している。見つかると面倒な事になるのはほぼ確実だからだ。


 一方のワルツも、ルシアから貰った布を頭から被って、それをローブ、あるいはポンチョのようにして身につけていた。ただ、彼女の場合は、布を縛っている部分がなぜか鼻の前にあって、誰がどう見ても不審人物そのもの。見た目が幼いために、違法に壁を越えたことを疑われる可能性は無さそうだったが、ルシアの指摘を受けて、渋々、布をマントのようにして首の前で縛ることにしたようだ。


 路地に出たワルツたちは、当初、町の治安を心配していたようである。どんな町であれ、路地というものは治安が良いとは言えないからだ。そんなところを少女たちだけで歩くなど、本来であれば危険極まりない事なのだから、警戒して当然だった。


 ……というのは、彼女たちが普通の少女だった場合の話。ワルツたちの場合は、自分たちが襲われることの心配よりも、相手を撃退した際に生じる騒ぎの方を心配していたようだ。もしも、ルシアが町中で人工太陽を炸裂させるようなことをすれば、町が蒸発するのは明らか。騒ぎどころの話ではなくなるのは想像に難くないのだから。


 しかし、幸い、路地には誰も歩いていなかったようである。路地の先にあった大きな通りを、兵士たちが慌てて走って行く姿が見えていた程度だ。


「ねぇ、お姉ちゃん……。もしかして、避難令とか出てるんじゃない?普通に歩いてたら、捕まるんじゃないかなぁ?」


「さすがに、捕まりはしないでしょ。最悪……近くの村から来た旅人だから、ルールとかよく分かんなかった、で通すか、逃げるかすれば大丈夫よ。きっと」


「お姉ちゃんらしいね……」


 いつも通りに強引だと思いつつ、ルシアはワルツの手を握って、路地裏を歩いて行った。


 そして、大きな通りの手前まで来て、そこから外を覗き見る。すると、兵士の他にも、少なくない数の町の人々らしき者たちがいて、とりあえずは町の中を歩いていても問題は無さそうな雰囲気ではあった。


「子どもはいなさそうだけど……とりあえず、歩いてても大丈夫そうだね?」


「ダメだったらその時はその時よ。むしろ、こういう時は、どっしりと構えていた方が怪しまれずに済むものよ?」


「そ、そっかぁ……そうだね……」


 とルシアがワルツの言葉に相づちを打った——その直後。


「おい!お前たち!」


 2人は後ろから兵士に呼び止められる。


「ひゃ、ひゃいっ?!」

「えっ……(今、どっしり構えるって言ってなかった?)」


「今は家から出ないように避難令が出ているだろ!今すぐ家に戻るんだ!」


「は、はいっ!」

「あー、うん……こうなるって分かってた」


 ルシアはそう言うと、兵士の鳩尾に向かって——、


   ドゴォッ!!


——強力な回復魔法をお見舞いした。あまりに高密度の回復魔法は、身体に取り込まれるまでに時間が掛かるので、物理攻撃と同じく、兵士の身体を吹き飛ばす。それもきりもみ状態で。


 しかし、回復魔法は回復魔法。兵士の身体を癒やすので、怪我にはならない。その上、ルシアの回復魔法は、超強力だったので、吹き飛んだ兵士が家の壁に当たったり、地面を転がっていったりしても、怪我を負う瞬間に回復してしまう。結果、普通なら危険極まりない体勢で地面に叩き付けられた兵士は、無傷のまま意識を失い、そのまま動かなくなってしまった。


「うわぁ……死んだんじゃない?あれ……」


「テレサちゃんや、テレサちゃんのご先祖様にやっても死ななかったから、多分大丈夫だと思うよ?」


「……もしかしてルシアって、テレサの家系に恨みでもあるの?」


 と、問いかけるワルツだったものの、ルシアからは返答が無かった。ただし、ルシアが質問を無視したというわけではない。


「お姉ちゃん、逃げなきゃ!別の兵士さんたちが近付いてくる!」


 ルシアたちがいた路地に、他の兵士たちが近付きつつあったのだ。


妾の扱いが基本酷いのじゃ……。

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