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14.1-07 レストフェン大公国7

 公都を守る兵士たちは、目の前の光景が信じられずに固まっていた。町が魔物に襲われるというのは、ありえない出来事ではない。町の周囲に背の高い壁が作られているのは、他国との戦争に備えるためのものであり、そして魔物たちの襲来に備えるためのものでもあるからだ。


 とはいえ、魔物たちからの"攻撃"に備えることを想定して建造されたわけではない。大抵の場合、大移動する魔物たちは、町の存在など気にする事なく、町の側を通過して、そのまま過ぎ去ってしまうからだ。壁の役割は、魔物たちが町の中に入ろうとするのを防ぐだけで良いのだ。魔物たちから攻撃を受けることを想定する必要はまったく無かった。……少なくとも今日この日までは。


 ゆえに——、


  ズドォォォォン!!

  ドゴォォォォン!!


——と魔物たちから魔法攻撃が飛んでくるのは完全な想定外。しかも、魔物たちは、町から300m以上離れた堀の反対側から攻撃してくるのである。弓で射る事は可能な距離だったが、あまりに魔物の数が多い上に、距離が離れているために威力も大分落ちてしまい、反撃として有効な攻撃とは言い難かった。魔法の場合も弓と大差は無く、反撃どころか、いたずらに魔物たちを刺激するものでしかなかった。


 いったいなぜこんなことになったのか……。魔物たちが狂乱する様子を眺めながら兵士たちがそんなことを考えていると、正門上部にあった司令部から伝令が飛んでくる。


「グラウンドバイソンからの攻撃に注意しつちう、地中に隠れた大物に警戒せよ!」


「「「!」」」


 その途端、兵士たちの間に別の緊張が走る。グラウンドバイソンたちからの攻撃に気を取られるあまり、地中にいる大物(?)の存在を失念していたのだ。


 この時、兵士たちは、ようやく気が付いた。……グラウンドバイソンたちは、地中の大物(?)に刺激されて興奮し、町に攻撃を仕掛け始めたのではないか、と。


「くそっ!何て厄日だ……」

「昨日も昨日で訳が分からん堀が出来ちまったってのに、今日は今日でこれとか、連日、何なんだよ……」

「頼むからどこかに行ってくれ……」


 町の外壁の上にいた兵士たちの間で、悪態が零れる。一方的に防御に回るだけではただ損耗するだけあって、事態が進展する訳ではないことは誰の目にも明白なこと。しかし、兵士たちに出来る事はなく、魔物たちに警戒するしかないという現状は、とてもストレスフルだと言えた。


 せめて地中に潜んでいるという大物(?)が表に出てくれば、戦い方も考えられるかも知れないというのに……。兵士たちは皆、そんなことを考えていたようだ。


 そんな鬱憤が兵士たちの間で広がる中、突然、状況に変化が生じる。


   ズドォォォォン!!


 堀の向こう側で大爆発が起こったのだ。場所は正門から見て左側。距離は3kmほど。まるで地中から巨大な太陽が現れるかのようにして、眩い光が辺り一帯を包み込んだ。


 その様子に、兵士たちの視線が釘付けになる。皆、例外なく、地面に生じた眩い太陽に目を向けて、唖然とした。


 グラウンドバイソンたちも似たようなものだった。違う点は、逃げ出したこと——いや、逃げ出せたこと。深い堀の外側にいたグラウンドバイソンたちは、爆音と衝撃波、そして眩い閃光を受けた途端、慌ててその場から逃げ出して、我先に南の方へと駆け出していった。


 しかし、町という拠点があり、さらに深い堀に囲まれているために逃げられない町の人々に逃げる事は出来なかった。結果、カオスと絶望が町を包み込む。


 幸いだったのは、その大爆発が1回だけしか生じなかったことだろう。何度も爆発していたなら、町の人々は平静を失い、制御不能な状態に陥っていたに違いない。町の中が相当な混乱に包まれているという点では、現状も同じだったが、略奪や暴動が起こるというレベルには達していなかった。


 ……ワルツたちが人工太陽を使って陽動を行い、そして飛び込んだのは、そんな混乱に包まれた町の中だった。

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