14.1-06 レストフェン大公国6
「バ、バレてるよ?!お姉ちゃん!」
「くっ!どうして……」
表で何が起こっているのか知らないワルツたちは、突然飛んできた矢に驚き——、
「と、取りあえず塞ぐね?!」ガッ
——トンネルの出口を閉鎖した。まさか矢が飛んでくるとは思っていなかったので、なぜバレたのか原因を究明するなど二の次。2人はとりあえず、安全な地中へと逃れる。
トンネルの出口を土魔法で塞ぎ、十分な厚みの壁を構築してから、ワルツとルシアは原因について議論を始めた。
「なんでバレたのかなぁ?ずっと地面の中を進んできたから、町の人たちには分からないはずだけど、完璧に出口を予想されてたよね……」
「そうねぇ……どうしてかしらねぇ……(やっぱり、ルシアの魔力を感じ取ったって言うのが、可能性としては一番高いわよね……)」
むしろそれ以外の理由などあるのだろうか……。ワルツは確信を持っていたようだ。
それ以外の可能性として、地中を潜って町に近付く者を検知するような結界魔法の類いがあるのかもしれない、などともワルツは考えていたようだが……。果たしてどれだけの者が地中を潜って移動出来るのか、と考えているうちに、あまり現実的ではないと思えてきたらしく、可能性のリストからは排除されたようである。
しかし、ワルツは原因に確信を持っていても、それをルシアに対し口に出来なかったようである。下手な伝え方をすれば、ルシアが傷ついてしまうかも知れないと考えてしまったのだ。
「えっとね?ルシア」
言うべきか、言わぬべきか、ワルツは悩みに悩んで……。そして、勢いに任せて口にすることを決める——のだが、その直前、ルシアが不穏当な発言を口にした。
「あ、そっか。堀の周りをグルリと取り囲むように一気にトンネルを作れば、どこから出てくるのか予想出来なくなるよね!」
「……えっ?」
妹は一体何を考えて、そんな結論に達したのか……。ワルツが戸惑い、返答に困っていると、ルシアは姉のその無言を肯定だと捉えたらしく——、
「じゃぁ、あっちとこっちの方向にもトンネルを掘るね?」
——と口にして、堀を取り囲むような穴を土魔法によって一気に穿った。
それは一瞬の事だった。3秒も経たない内に、向こう側が見えないくらいの長いトンネルが、堀とは並行して伸びるように一気に穿たれたのだ。
ごく短時間で出来上がった事もあり、費やされた魔力の大きさも半端なものではなかった。当然、地上にいたグラウンドバイソンたちにも大きな影響が出る。
グラウンドバイソンたちの間で悲鳴に近い鳴き声が上がり、彼らは逃げ場を求めように一気に駆け始めたのだ。しかし、地面全体から立ち上ってくるかのようにルシアの魔力が拡散していたので、その場から逃げようにも彼らには逃げ場はない。
結果、魔物たちはどこに逃げれば良いのか分からなくなり、今度は錯乱を始めた。具体的には自傷行為や仲間同士で戦闘行為を始めたのである。
現象はそれで終わりではなかった。グラウンドバイソンの中には魔法が使える個体もいて、狂乱した結果、町の外壁上にチラリと見える兵士の姿に興奮して、彼らの方へと魔法を放ち始める個体が現れたのだ。
その様子はさながら戦争だった。魔物たちVS人間という構図である。通常ではありえない、魔物たちによる攻城戦だ。
そんな光景の中で、外壁上にいた兵士たちは思う——いや気付く。……もしや、自分たちが、堀の壁に開いた穴へと攻撃を仕掛けたことが現状の発端だったののではないか、と。そして既に後悔が先に立たない状況にあるのではないか、とも……。
今日は特別眠いのじゃ……zzz。




