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14.1-05 レストフェン大公国5

 公都(?)の町から直接見えない丘の裏から、町に向かって地下トンネルを掘り始めたワルツたち。そんな彼女たちは、もう少し注意深く考えるべきだった。……なぜグラウンドバイソンたちは町を襲ったのか。グラウンドバイソンたちが走ってきた方角はどっちの方角だったのか。そして、彼らの真下を通るようにトンネルを掘ればどうなるかを……。


   ブォォォォォン!!


 グラウンドバイソンたちが一斉に鳴き声を上げる。そんな彼らの中に広がるのは、明確な恐怖。大人も子どもも関係無く、皆が慌ててその場から立ち退き、グラウンドバイソンが1匹もいない真っ直ぐな道のようなものを形作る。


 彼らは周囲を漂う異常な魔力を感じて、回避行動を取ったに過ぎない。この町まで大移動してきた理由も同じだ。莫大な魔力を知覚して、それから逃げるために、彼らは走ってきたのだ。例えるなら、牧羊犬に追われる羊の群れに近いと言えるかも知れない。まぁ、誰の魔力を感じ取って逃げたのかは、ここでは伏せるが。


 そんな事には気付かずに、ワルツたちは地中を真っ直ぐに進む。


「地中を土魔法で掘り進めるのって、案外難しいんだよね……。掘った土は消えるから、土の処理は考えなくても良いんだけど、壁が柔らかいから、そのままだとボロボロと崩れてきちゃうし……」


「それにしてはしっかりとした壁になっているんじゃない?」


「うん。前にお姉ちゃんに教わったとおり、土魔法で穴を掘りながら、別の土魔法で壁を作ってるからね。シールドマシン工法って言ったっけ?」


「んー……ちょっと違う気がするけど……まぁ、いっか。なるほど、事情は分かったわ?」


「でもさ……この方法って、無駄が多くないかなぁ?時間も掛かるし……。もう、真っ直ぐにビームを撃った方が早いと思う」


「……もしも町の中に地下道とか地下空間があったときに、一緒に吹き飛ぶ可能性があるから、ビームを撃つのは無しでお願い」


「あ、そっか。そういえば、どこの町でも、皆、地下に穴を掘ってたもんね……」


 町の人々にしても、ワルツにしても、皆、穴を掘るのが好きなのだろうか……。自らも地中に穴を掘りながら、ルシアはそんな事を考えていたようだ。


 それからしばらく穴を掘り進めていくと——、


   ガラガラ……


——ルシアたちは、町を取り囲む"掘"の中に到達した。地中を掘っている以上、自分たちが今どこにいるのか分からなかったので、一旦、"堀"の壁から顔を出して、現在位置を把握しておこうということになったのだ。その後の事は、外の景色を見てから判断しよう……。それが2人の方針だった。


 掘った穴の先から差し込む表の光に目を細めつつ、開いた穴から2人でこっそりと外を眺めようとした、そのとき——、


   カンッ!


——何か硬いものが岩に当たるような、あるいは空から何か硬くて軽いものが落ちてきたような音が、トンネルの中に響き渡ってくる。それはまるで降り始めの雨のように次第に勢いを増していき……。終いには——、


   ドガガガガッ!!


——絶え間ない連続的な音に変わてしまった。


 一体何の音なのか……。2人が首を傾げていると、その音の原因が、トンネルの穴の中に転がり入ってくる。


   カランカランッ……


「……矢?」

「矢、だね?」


 何のひねりもない、普通の矢。そんなものがなぜトンネルの中へと入ってくるのか……。


 この時、ワルツたちは、ようやく事態を把握した。


「「バレてる?!」」


 地中を隠れて進むはずが、2人の知らぬ間に町の人々にバレてしまっていたのだ。その原因は、地上にいたグラウンドバイソンたちの動きにあったのだが、地中を進むルシアたちにそれを知る術はなく……。2人はトンネルの中で、なぜバレたのか、としばらくの間、戸惑うことになるのであった。


 なお地上では——、


「出てくるのは何だ?!」

「だから、サンドワームだって!俺は直接見たことが無いが、向こうの大陸では、町を飲み込むくらいでかいやつがいるらしいから、それが海を渡ってきたんだろ」

「ここ、砂漠じゃねぇよ。っていうか、海を渡るサンドワームなんている訳ねぇだろ」


——といったような議論が、堀の縁に立った兵士たちの間で交わされていたとか、いなかったとか……。


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