6序-12 勇者とリア1
ルシアが折り鶴の作り方をアトラスに教えてもらっていた頃。
ドゴォン!!
「どういうことなんだ!!」
・・・エネルギア内の医務室で、勇者が壁を思い切り殴りつけた。
「落ち着け、レオ!2人に当っても仕方ないだろ!」
「・・・くそぉぉぉぉ!!」
ドゴォン!!
再び壁を思い切り殴る勇者。
殴った瞬間、拳から鮮血が飛び散るが、彼にそれを気にした様子が無いのは・・・やはり、自分では抑えられないほどに憤っているからなのだろう。
「今まで黙っていたことは謝ります・・・」
そう言って頭を下げるカタリナ。
「・・・勇者?カタリナは寝ないで治療法を学んでいるのよ?当たるなら、今まで隠しておくように言った私に当たりなさい」
機動装甲の姿のワルツが、カタリナを守るように立ちふさがる。
・・・一体2人は、何を黙っていたというのか。
「リアァ・・・」
まるで絞りだすかのように魔法使いの名前を口にしながら、ガラスの向こう側で、大小様々な管が取付けられている彼女に視線を向ける勇者。
・・・そう、ワルツとカタリナが勇者に教えなかった事というのは、彼の仲間であるリアの容態のことである。
遂に勇者は、リアが不治の病で、このままだと近いうちに命を落とすことを聞かされたのだ。
今まで2人は、何故このことを勇者に教えなかったのか。
それは、勇者がゾンビ化していたり、エンデルシアのことでゴタゴタしていたり、神やら天使やらに襲われていたりと、言い出す機会が無かったからである。
まさか、ゾンビから回復したばかりの彼に『リアは不治の病です』などと言えるはずがなかったのである。
もちろんそれだけでなく、手が離せないほどに忙しい時期に彼女のことをカミングアウトすることで、勇者だけでなく他の仲間達にも変な精神的負担を掛けたくなかった、ということも大きな理由の一つだろうか。
断じて、面倒だったから、というわけではない・・・。
「くそっ・・・くそぉっ・・・」
そして勇者はガラス窓の前で項垂れた。
「・・・」
そんな勇者に、何と声を掛けていいのか分からず、顔を顰める賢者。
一方、剣士の方は、カタリナが必死になって治療法を確立しようとしていること予め聞かされていたので、ある程度余裕があった。
ただし、腕を失って治療を受けた後に医務室で眠っていたところを、勇者の怒鳴り声で起こされたので、服装が手術着だったりと、違う意味で余裕は無かったが・・・。
項垂れる勇者に掛ける言葉が見つからない分からない4人は、彼が落ち着くまでリアとしばらく2人きりにするため、医務室の外へと出てきた。
「・・・ワルツ殿。リアの病状を詳しく教えてもらえないだろうか?」
と、勇者とはまた異なる種類の、難しい表情を浮かべた賢者。
そんな彼の質問に、
「・・・それは私から説明しましょう」
ワルツではなく、カタリナが口を開いた。
「・・・いいの?」
「はい。これもまた、私の仕事なので」
「そう・・・」
そうワルツとやり取りをした後、一旦眼を閉じて深呼吸をして、カタリナは話し始めた。
「本来、人の身体には魔力の『生成』と『蓄積』、そして『消費』という3つの機能が備わっています。このうち前者2つのどちらか、あるいは両方が失われると魔力生成疾患と呼ばれる病気と診断されるわけですが・・・リアは『蓄積』ができないようです」
「原因は分かっているのか?」
「・・・いえ、残念ながら。ですが・・・目星なら付いています」
そこで言葉を切って、視線を下げるカタリナ。
「・・・どうした?なにか言い難いことなのか?」
言葉を切ったカタリナに、怪訝な表情を浮かべる賢者。
「・・・はい。リアさんのプライバシーに関わることなので・・・。差し障りの無い範囲で言うなら・・・」
そしてカタリナは視線を上げて言った。
「魔力を無理矢理に抜かれた・・・ということでしょうね」
水の溜まった袋を人の身体と見立てて考えた時、その中から第3者が水を取り出すためにはどうすればいいのか。
・・・針を刺せば良いのである。
だがその結果、袋に穴が空いてしまい、そこから絶えず魔力が漏れ出るようになってしまった、というわけである。
・・・尤も実際には、そのような物理的な方法ではなく、魔術的な方法なので、魔力が漏れている場所を塞いで止めることは出来ないのだが。
「・・・治らないのか?」
眉間に皺を寄せながら、カタリナに問いかける賢者。
「物理的な傷とは違うので・・・自然に治癒するということは無いでしょう。今、治療をするための準備をしていますが、もうしばらく時間が必要かと」
「そうか・・・」
それだけ言うと、賢者は壁の背を付けて視線を下げ、深い溜息を吐いた。
しばらく、カタリナの言葉を頭の中で繰り返していた様子の賢者は、
「・・・私達に何か出来ることがあったら言って欲しい」
そんな言葉を残して、医務室の中へ消えていった。
「・・・こんな時、無力だな・・・」
勇者と賢者、そしてリアがいる医務室へと視線を向け、剣士が呟いた。
「人間誰しも、得意なこと以外では大抵無力なものよ?剣士なんか、剣を振るっている間以外は大体無力じゃない」
「いや、そんなことは・・・あるかも」
ワルツの言葉を否定出来ない剣士は、肩をすくめて苦笑する。
まぁ、彼は無力かもしれないが、精神的な余裕は勇者パーティーの中で一番残っていると言えるだろう。
・・・そんな時、
『ビクトールさーん!』
グシャァ!!
「ぐほぁっ?!」
剣士に何か黒い蟲が集合して出来たような物体が突っ込み、彼は吹き飛ばされた
そして黒い蟲のようなものが形を変えて少女の姿になると、
『もう、あるけるようになったんだね』
そう廊下にあったスピーカーをハッキングして喋りながら、剣士に抱きついた。
「ちょっ、エネルギア!ミリマシンを使ってその姿なったらダメって言ったでしょ?」
『だって、ビクトールさんがげんきになったら、ぼくもなんかうれしくなっちゃって・・・』
「・・・トドメを刺しに来たっていうなら分かるけど・・・」
そう言いながら、剣士に視線を向けるワルツ。
すると、
ピクッ・・・ピクッ・・・
・・・剣士が痙攣していた。
どうやら、エネルギア(ミリマシン集合体)のタックルが鳩尾にクリティカルヒットしたのか、それとも抱きついた際の締め付けがきつ過ぎたのか・・・いずれにしても物理的な衝撃で気絶したらしい。
『・・・?!び、ビクトールさん!』
意識のない剣士に気づいてあたふたするエネルギア。
「・・・普段からそうやって皆の前で話してくれればいいのに・・・」
『?』
なにをいってるの?といった様子で、ワルツに頭を傾げるエネルギア。
人見知りが激しいのか、天然なのか・・・。
「・・・では、私は作業に戻りますね」
空気が和んだ(?)ところで、カタリナが口を開く。
「えぇ。繰り返すようだけど、無理のし過ぎには注意してね?ミイラ取りがミイラになっても困るんだから」
「はい。大丈夫です。その時はワルツさんがなんとかしてくれると思うので」
そう言って笑みを見せるカタリナ。
「・・・はいはい。ま、頑張りなさい」
「はい」
そう言ってカタリナが医務室に入ろうとした時の事だった。
「ワルツ殿!」
賢者が医務室から飛び出してきた。
「ん?何かあったの?」
「勇者が・・・!」
相当取り乱している様子の賢者。
「・・・はぁ・・・」
賢者の様子に、何があったのか、大体予想できたワルツ。
「・・・通ります」
カタリナが、扉の前にいた賢者を横に退けながら医務室へと入ると・・・、
「・・・いない・・・」
集中治療室の窓が割れていて、勇者とリアの姿がどこにもなかったのである。
主殿の運転が長すぎるせいで、尻尾が痛いのじゃ。
座席に尻尾を通すための穴を付けて欲しいのじゃが・・・恐らく車検が通らぬじゃろうな・・・。
というわけで、北海道なう、なのじゃ。
・・・ちゃんと更新できるんじゃろうか。




