14.1-04 レストフェン大公国4
一旦、自宅内に獣人たちを戻らせた後、ワルツたちは再び家の外へと繰り出した。家具を作るために材料を集めなければならないからだ。
その内、木材については、背の高い針葉樹を適当に切り倒して、ルシアの魔法で乾燥させればいくらでも手に入りそうだったが、例えば布団を作るために必要となる綿や布(30人分)などは、自作するよりも買った方が早いのは確実だった。
結果、ワルツたちは、近くの町に繰り出して、必要物品を購入することにしたようである。そのついでに、公都の状態を見てこよう、という話になったのは自然の成り行きだと言えるだろう。
2人は重力制御魔法により、再び空を飛んで公都(?)へと向かう。昨日、ルシアが巨大な堀を穿った町だ。
町からは直接見ることの出来ない丘の影に降り立ったワルツたちは、そこから身を乗り出して、町の様子を確認した。すると、町を取り囲むように出来た堀の縁に、まだ数多くの魔物たちが群れている様子が見えてくる。というより、昨日よりもさらに増えていたと言うべきか。
そこにいた魔物たちは、バイソンのような牛の魔物。筋肉質で気性が荒く、群れが走った後には何も残らない、と言われるほどの魔物たちだった。
そんな彼らは公都を襲おうとして、怒りに打ち震えていた、というわけではない。むしろ、周囲をキョロキョロと見回して、何かを怖がるか、あるいは警戒するかのよう。身を寄せ合って一箇所に固まる彼らの眼中に、公都で見え隠れする人間たちの姿は無いようだった。
一方、公都に住まう人々にとっては、"グラウンドバイソン"が何を考えていようと、彼らが脅威である事に違いは無かったらしい。ルシアが作った堀を越える作業も、グラウンドバイソンを気にするあまり、思うように進展していない様子だ。グラウンドバイソンたちが群れている方角とは反対側の方角で、何名かの人々が堀の内側と外側に立って何かをしようとしていたようだが、堀に梯子を掛けられているわけでもなく、ロープを掛けているわけでも無く……。あーでもない、こーでもないと、ただ議論を交わしている様子だった。あまりに深く、そして幅の広い堀を越えるのは、現状、転移魔法以外では難しいのだろう。
その様子を見て、ワルツとルシアは話し合う。
「あれ……ちょっと可哀想じゃない?滅茶苦茶困ってると思うけど……」
「耳と尻尾が生えてる人たちを虐めた報いだもん!少しくらい困って当然だと思う!」ぷんすか
「でも、どうする?この感じだと、あの大きな門からは入れないわよね?転移魔法が使えるっていう体で近付いても、不審がられるのは間違い無いと思うし……。尋問されたときに、まともな言い訳を突き通せる自信は無いわ?」
「んー、じゃぁ、この際、あの壁を全部転移させてどけちゃうとか?」
「……ルシア。誰に似たのかは分からないけど、もう少し穏便にいきましょ?絶対、町中が大混乱に陥って、買い物どころじゃなくなるから」
過激な発言を口にするルシアを前に、ワルツは内心で頭を抱えた。一体誰に似たのか——と思いつつも、実のところ何となく覚えがあったらしい。
「やっぱり壁を越えて中に入るしかないんじゃないかなぁ?でも、空を飛んでいったら、すぐにバレちゃうよね……。アステリアさんたちなんて、私が空を飛んだ瞬間、耳を塞いで蹲るくらいだし……」
「そうね。空を飛ぶのは無しね。じゃぁ、もう、地面の中を進むしかないんじゃない?」
「そうだね……あ、でも、地中に穴を開けるのは良いけど、出るとき大丈夫かなぁ?家の下や町の人たちの真下に出ちゃったら、大変な事になりそう」
「確かに……(せめてホログラムが使えれば、光学迷彩とかやりたい放題だったんだけど……)」
そんなやり取りを交わして悩みに悩んだワルツたちは、考えに考えた末——、
「やっぱ、壁に穴を開けて中に入りましょうか?」
「あれ?さっき、壁を退けるのは騒ぎになるって言ってなかった?」
「全部退けるのはどうかと思うけれど、まぁ、小さな穴くらいなら良いんじゃない?多分」
——結局、土魔法で地中を掘り進めながら、町を取り囲む壁の外側ギリギリを狙って地表に出て、そこから壁に穴を開けて町の中に入ることに決めた。その際、ルシアは、姉のそのアイディアに色々と言いたいことがあったようだが、いちいち気にしていられなかったらしく……。大人しく付き合うことにしたようである。
そういえば、重要な事を書くのを忘れておったのじゃ。あとで閑話を挟もうかのう……。




