14.1-01 レストフェン大公国1
ワルツたちが新居(?)を構えた村からそれほど遠くないとある建物。その中にある薄暗い部屋の中に、一人の少女の姿があった。
「……間違いない。み・つ・け・た☆」にやぁ
満面の笑みを浮かべるその少女は、8歳児であるイブや、今のワルツと同じくらいの年齢に見えていて、一見するとただの幼い女児のように見えていた。
しかし、彼女がいた部屋の中には天井高くそびえ立つ本棚と、同じ高さの分だけ積み上げられた本の山があって、なおかつ、机の上の上には多数の実験道具が所狭しと並び……。床には空になったワインボトルが転がっている、といったように、少女の部屋というにはあまりに場違い。部屋の主がそこにいる少女とイコールであるなら、彼女は見た目通りの年齢というわけではなさそうだった。
「さてさて……どうやってここに連れて来ようかな〜?」
遊戯板の上で踊る駒を自分の手元に引き寄せる方法を考えるかのように彼女が見つめていたその先は、駒が載る遊戯板などではなく、まだ夜も明けていない真っ暗なテラスの向こう側。常人には何も見えないはずのその景色の向こう側へと、少女はとても嬉しそうに、キラキラとした視線を送ったのである。
◇
「ふ、ふえっくしゅ!」
「うん?ルシア、風邪でも引いた?」
「んー、分かんない。なんかこう、ゾワゾワとした感覚がした?」
「やっぱり風邪じゃない?」
「どうかなぁ……。風邪って言うか……テレサちゃんに妹扱いされたときみたいな感じだったから、多分違うんじゃないかなぁ……。誰かが噂をしてるんだと思う」
昨晩は早く寝て、そして朝早く目を覚ましたワルツとルシアは、自宅地下の自宅(?)にあったキッチンに立って、朝食の準備をしていた。材料は、ルシアが追尾型の炸裂魔法で狩ったイノシシ肉と、獣人たちに採ってきてもらった山菜で……。それを即席のフライパンの上に並べて、ジュウジュウと焼いているところである。
「そういえば、テレサたち元気かしら?」
「召喚してみる?」
「え゛っ……そんなこと出来るの?!」
「出来るよ?」ブゥン「ほら、テレサちゃん」
「……zzz……んあ?」
「まぁ、今のところ必要ないから元に戻すけどね」ブゥン……
「なんていうか……テレサ……生殺与奪を完全にルシアに握られているのね……(っていうか、モノ扱い?)」
キッチンの硬い床の上に召喚させられて、即座に送還されたテレサのことを思い、ワルツはなんとも表現しがたい複雑そうな表情を見せる。同情しているような、自分でなくてよかったような、そんなポジティブとネガティブが混ざったような表情だ。
「じゃぁ、もしかしてコルテックスとかも召喚出来るの?」
「テレサちゃん以外は無理かなぁ……。なんか可哀想だし、失敗して怪我でもしたら大変だし」
「テレサなら良いの?」
「失敗したこと無いから、多分大丈夫だよ。多分」
「フラグじゃない……それ……」
ワルツとルシアがそんな取り留めの無い話をしながら朝食を作っていると——、
コンコンコン……
——キッチンの扉を誰かがノックする。
そのノックに応える形で、2人共が「「はーい」」と答えると、キッチンへとやってきたのは——、
「お、おはようございます!寝坊してしまい申し訳ございません!お二人ともお早いんですね……」
——狐の獣人の少女であるアステリアだった。起きてくるにはあまりに早い時間帯だったところから推測するに、未だ自分が奴隷だと思い込んでいて、ワルツとルシアのために朝食を作りにやってきたようである。
そんな彼女は、ワルツたちと同じ建物に住んでいた。他の獣人たちは、兄弟だったり、付き合いが長かったりして、近くの建物に住居を割り当てた際、スムーズに分けることが出来たのだが、アステリアだけは例外。公都に来て日が浅かったこともあり、彼女だけは所謂ボッチになってしまったのである。結果、ワルツとルシアは、アステリアのことを自宅に招くことにした、というわけだ。
「いや、寝坊したわけじゃないわよ?私たちが早かっただけで……」
「もう少ししたらご飯ができるから待ってて?」
「で、では私も手伝います!」
手伝いを申し出たアステリアを前に、ワルツとルシアは顔を見合わせて、そして同時に問いかけた。
「「……料理できるの?」」
「えっ……」
2人はなぜ酷く真剣な眼差しを自分に向けてくるのか……。事情が飲み込めなかったアステリアは、すぐに返答出来ず、立ち尽くしてしまうのであった。
なお、昨晩の夕食は、牡丹肉の丸焼きだった模様。




