14.0-33 新天地33
アステリアに続き、残る獣人たちも地下空間が見通せる踊り場へとやって来る。そして、そこに広がっていた光景を目の当たりにして、例外なく、皆が閉口——いや、開いた口が塞がらない様子で、唖然とした。
そんな中で、アステリアに問いかける者が現れる。地下空間を設計した本人であるワルツだ。
「それで、感想はどうかしら?」
この光景を見てどう思うか。ワルツはアステリアに対して問いかけた。
対するアステリアは、ギギギギ、と音がしそうな振り返り方をした後で、プルプルと震える指先を地下空間へと向けて、そして感想ではなく、疑問をワルツへとぶつけた。
「な、な、なんですか?!これは?!」
「何って言われてもねぇ……。見た通りよ?ルシアの魔法で地面を掘って、人工太陽を使って部屋(?)の中を明るくしつつ暖めて、流れてくる地下水を転移魔法で常時外に流してる感じ?まぁ、ルシアの魔力に頼り切りなところはあるから、その内、排水くらいは電動ポンプを作ってどうにかしようとは思うけどね?良くない?上水道も下水道も完備よ?こんな物件、どこを探しても無いと思うけど?」
地下空間の底をどこからとも無く流れてきては、そのままどこかへと消えていく様子に目を向けながら、ワルツは物件(?)について説明をする。
それでもアステリアたちの表情は晴れない。ワルツの説明を聞いても、心ここにあらずと言った様子だ。それほどまでに眼下に広がる光景は、ショックを受けてしまうものだったのだろう。
そんな獣人たちからは、今すぐまともな感想を引き出せないと悟ったワルツは、感想を聞くのを諦めて、もう一つ説明を追加する。彼女は、階段に付けられた柵から乗り出して、その先にあった何かを指差しながら声を上げた。
「ちなみに……ほら、あそこ!あれが貴女たちの新しい自宅よ?」
ワルツのその言葉を聞いて、今度こそ獣人たちは、明確な反応を見せる。さすがに、新しい自宅という言葉には反応せざるを得なかったらしい。そして彼らは同時に思う。……この空間そのものが、新しい自宅なのではないのか、と。
そんな事を考えながら、地底を覗き込むと、確かに集落のようなものが獣人たちの目に飛び込んでくる。地上にあったルシア邸(?)を複製して並べたようなこぢんまりとした集落だ。
「完成したのは側だけだから、まだ中身の家具とかはほとんど無いのよ。何を置いても自由だけど、自分たちで調達したり、作ったりしてね?」
次々と説明をして行くワルツの言葉が獣人たちの耳に届いていたかどうかは定かでない。皆、地底を眺めながら、ぽかーんと口を開けていたからだ。
そんな中でも、アステリアは大分軽度な部類だと言えた。呆ける以外の反応を見せることができたからだ。
「あ、あの……1つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「えぇ、良いわよ?1つじゃなくて、2つでも、3つでもね?」
「じゃ、じゃぁ、お聞きしますが…………ごしゅ……マスターはどのような方々なのでしょうか?」
その問いかけを聞いたワルツとルシアは、思わず顔を見合わせてしまう。獣人たちに対して何と答えるべきか、話し合っていなかったのだ。
だが、ワルツたちの中では、答えは大体決まっていた。
「……ただの町娘よ!」キリッ
「私もただの町娘!」キリッ
「「「…………」」」
堂々と身分を答えたワルツたちを前に、獣人たちは今度こそ閉口した。この時、彼、彼女たちが一体何を考えていたのかは、もはや言うまでもないだろう。皆、まったく同じ事を考えたに違いない。
こうしてワルツたちは、いつも通りに地下空間を作り、そこに住居を構えたのである。




