14.0-32 新天地32
ルシアたちが作った家は、確かに家の形をしていた。まぁ、この世界の一般的な三角屋根の家と比べれば、鉄筋コンクリートで作られたような角張った家というのは少々特殊な部類には入るが、それでも見た目が家の範疇から大きく外れることはなかった。
それでも、アステリアは、家の中を見た途端、目を疑ってしまったようである。彼女の目には、その家が、"家"だとは到底思えなかったのだ。
「何も……無い……」
家の中には何も無かったのだ。深い意味は無い。その言葉通りの意味で、家具どころか部屋も無く、だだっ広い倉庫のような空間があるだけだった。かろうじて家らしいと言えるのは、魔導ランタンのようなものが取り付けられていることだけ。おかげで部屋の中は妙に明るかったが、それだけでは家らしいとは到底言えなかった。
こんな倉庫のような空間の中に住まえというのか……。アステリアがそんな抗議を上げるか否かを悩んだときのこと。
「あれは……」
アステリアは部屋の中にあるものを発見する。何も無いと思っていた部屋の中に、一つだけとあるものを発見したのだ。
「階段……?」
だだっ広い部屋の中心に一つだけポツンと存在していた地下への階段。それを発見したアステリアは、吸い寄せられるように階段へと近付いていった。
そしてアステリアは、階段の上から地下を覗き込んだ。そこには真っ直ぐに地下へと続く階段が広がっていたわけだが……。アステリアはそこに異常を見つける。
「(長い……どこまで続いているの?)」
階段は、ちょっと地下室に繋がっている、というレベルではなかった。階段は途中で折り返しているらしく、終わりは見えず……。また、薄暗いこともあって、下るのを躊躇ってしまうような雰囲気に包まれていた。
それでもアステリアは、階段を降りることにしたようである。家の扉のところで、ワルツとルシアがニコニコしながら、アステリアが階段を降りることを待っているのだ。地下で何が待ち受けているのかはアステリアには分からなかったが、彼女には降りないという選択肢は残されていなかった。
果たしてただの地下室に繋がっているのか、それとも虎穴の入り口か……。小さくない恐怖と戸惑いを抱えながら、アステリアは一歩、また一歩と階段を降りていった。
そして途中の踊り場を経て、180度切り返し、そこから10数段ほど降りたところで——、
「また扉……」
——どこかで見た扉が彼女の事を出迎える。地上にある家の入り口に備え付けられていたものと同じ扉だ。
「…………」ごくり
一体、何の冗談で、こんな立派な扉を地下にも作っているのか……。そんな疑問を抱きながら、アステリアはその扉に手を掛けて、手前に引っ張った。
ガチャッ……
「……っ!」
次の瞬間、アステリアは目を細めた。目が階段の暗闇になれていたせいで、扉を開けた瞬間に内部から漏れ出してきた眩い光に目が眩んだのだ。
一体、何の光なのか……。そんな疑問を感じながら、アステリアは扉の先に目を凝らした。
「…………」
そして彼女は閉口する。それと同時に目を見開いた。辺り一面、眩い光に包まれているというのに、だ。
当然である。扉を開けたその先には——、
「お、表……じゃない?!」
——まるで表の空間と見間違えてしまうような大きな空洞が広がっていたからだ。
何百メートルあるのかも分からない空洞を、太い柱が何本も支えていて、地底には川のようなものが流れ……。なにより、天井には、小さな太陽のごとき眩い光球が瞬いているのである。
魔法がある世界においても、その景色はまるで異世界のよう。想像を絶する自宅(?)の光景に、アステリアは途方に暮れてしまうのであった。
これでもワルツとア嬢的には自重したつもりなのじゃ?




