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14.0-31 新天地31

 ルシアたちに誘われるまま、村へと戻ってきた獣人たちは、村にあった白い建物の前まで案内された。


 その建物は、今では、四角い"外壁"は取り除かれ、鉄筋コンクリート製の2階建て住居、といったような見た目になっていた。そう、ルシアが昨晩建築した新築物件である。獣人たちが村に到着した際は、外壁が取り付けられていたので大分様変わりしており、獣人たちの大半が、こんな建物はあっただろうか、と首を傾げていたようである。


 そしてもう一つ、彼らが疑問に思うことがあった。その物件は、30人もの獣人たちが皆で中に入るには、あまりに小さすぎたのだ。


「あの……ご主人様方?」


 狐の獣人の少女が、一歩前に歩み出て、ワルツたちに問いかける。


「うん?ご主人様?」

「別に、貴女たちのことを奴隷として扱うつもりは無いから、私たちのことは名前で呼んで貰っても構わないわよ?私がワルツで、この子がルシアね?……って言っても、多分、そんな事言えません!とか言われそうだから、呼び方は自由で良いけど……でも、出来ればご主人様以外で呼んでもらえるかしら?」


「ではマスター」


「あんま変わってないじゃん……(やるわね……この狐娘……)」


 ご主人様もマスターも意味は同じ。それを分かっているのかいないのか、迷うこと無く"マスター"と口にした狐娘を前に、ワルツは不機嫌そうに眉を顰めた。とはいえ、呼び方は自由で良いと言った手前、修正させることは出来ず……。ワルツはマスターと呼ばれることを受け入れることにしたようである。


「この建物では、30人も暮らすのは難しいように思うのですが、皆ここに住まうのですか?」


 自分たちは、この小さな家にギュウギュウ詰めに押し込まれて生活するのだろうか。あるいは外で寝泊まりしろと言われるのだろうか……。獣人の少女としては、そういう経験が無いわけではなかったが、好ましい状態とは言えなかったので、できれば遠慮したかったようである。まぁ、自分は未だ奴隷であると思い込んでいる以上、拒否しようとまでは思っていなかったようだが。


 そんな獣人の少女に対し、ワルツが返答する。それも怪しげな笑みを浮かべながら。


「ふっふっふっ……その心配には及ばないわ?中に入れば納得できると思うわよ?」


「そう……なのですか?」


「まぁね。ところで貴女、名前はなんて言うのかしら?昼間から何度か話をしてるけど、教えて貰ってないわよね?」


「っ!し、失礼しました!」


 獣人の少女は、慌てて佇まいを正して、頭を下げながら自身の名前を口にする。


「私はアステリアと申します」


「アステリア……(星ねぇ……。黒っぽい体毛で、目が金色だから?)」


「以降、お見知りおき下さいませ」


「まぁ、そんな畏まんなくたって良いわよ。じゃぁ、ちょうど良いから、アステリアが最初に家の中に入ってみて?あと、感想も聞かせてね?」


「え……」


「何か問題でもある?」


「い、いいえ……」


 アステリアと名乗った獣人の少女は、戸惑いを隠せないままに、ワルツたちが作った家の方へと歩いて行った。そして家の前で立ち止まって息を整えてから——、


  ガチャリ……


——彼女は扉に力を加えて、それを手前に向かって引っ張ったのである。


 その瞬間、アステリアは、目を丸くする。扉を開け放ったわけでないので、未だ家の中は見えていないというのに、だ。


「こ、これは……!」


 アステリアが驚いたもの。それは、家のドアを閉めるための装置だった。この国における家の玄関というものは、扉を閉めるために、錘の付いた滑車を使うか、ヒモで縛って固定するか、あるいは扉の歪みを使って無理矢理固定するというのが一般的なのである。その内、滑車を使う扉は、それなりに値が張るので、高級物件くらいにしか使われていない代物だ。


 そんな状況の中で、ワルツたちの家に装着されていたのは、バネを使ったドアクローザーだった。しかも、ワンウェイダンパーを使った本格的なもので、開けるのも閉めるのも滑らか。その上、扉の取っ手には、この国では珍しい鍵が装着されていたので、尚更にアステリアの度肝を抜いていたようである。


「うん?何?」


「い、いえ……」


 自分の常識がおかしいのだろうか……。自分に向かって訝しげな視線を送ってくるワルツの反応を見たアステリアは、自身の驚きをどうにか抑え込むと、その扉を最後まで開けた。


 その結果、彼女の目に家の中の光景が入ってくるのだが——、


「……えっ」


——その光景を見たアステリアは、再び目を丸くして固まってしまうのである。

まぁ!なんということでしょう!なのじゃ。

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