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14.0-29 新天地29

 ルシアたちの下で働くと最初に言い出した狐の獣人の少女に続き、他の獣人たちも皆、ルシアたちの下で働きたいと言い出した。彼らからすれば、ルシアもまた獣人ではあったものの、彼女は身なりが良く、皆を雇用出来るほどの財力を持っているように見えたこともあり、彼女の下にいればとりあえずは安泰な生活が送れると考えたらしい。それ以外の選択肢はどれを選んでも茨の道。そう言う意味では、彼らに他の選択をする余地は無かったと言えるかも知れない。


 そんな彼らの事を、ルシアもワルツも二つ返事で受け入れた。これから先、どうするのか細かく考えてはいなかったようだが、元々深く考えずに取りあえず行動してみるのが彼女たちの基本的なスタンス。最悪、ミッドエデンに皆で逃げ帰ればどうにかなると考えていた事も、獣人たちを受け入れた理由の一つになっていたと言えるかも知れない。


 こうして獣人たちは、不安と期待に戸惑いつつも、ルシアが新居を作った村へと向かって移動を始めた。村までは歩いて3日ほどの場所。ルシアとワルツは、その道程を、30人の獣人たちと共に歩いて行く。


 ただまぁ、彼女たちがその距離を、3日かけてのんびり歩いて行くなどありえない事だった。その出来事はワルツのこんな一言で始まった。


「この道をずっと進めば、そのうちあの村にたどり着けそうだけど……無駄よね」


 何がどう無駄なのか……。獣人たちが首を傾げていると、ワルツとルシアは街道を外れて、そのまま草むらを真っ直ぐに歩き始める。


 本来であれば、草むらを歩くなど、ダニなどの虫が身体に付着するので、魔物狩りや山菜採取などを除けば、推奨される事ではない。迷子になってしまう可能性や、野盗に遭遇するか可能性もあるので、常識的に考えれば非常に危険な行為だった。


 道が曲がりくねっているのは、理由も無く曲がりくねっているのではなく、元は迷子なったり野盗と遭遇したりすることを防ぐためなのである。離れた場所にある村へと真っ直ぐに歩いて行けばすぐに到着するものの、敢えて近くの村々を経由するように作られていたり、魔物や野盗が隠れられる場所を避けて、可能な限りだだっ広い場所を狙って道が作られていたりするので、結果的にワインディングな道が出来てしまうのだ。必要に迫られた結果、蛇行してしまったのである。


 しかし、ワルツとルシアには関係の無い事だった。迷子になることなどありえず、また魔物にも野盗にも襲われる心配の無い(?)彼女たちにとっては、蛇行する道など単なる無駄でしか無く、村に戻る経路は真っ直ぐであればあるほど望ましかったのである。


 道を外れて歩き始めたことに困惑が隠せない獣人たちなどお構いなしに、ワルツとルシアは新しい道を作っていく。ルシアが風魔法を使って露払いと除草を行い、ワルツが重力制御魔法と——、


「邪魔ね。これ」ドゴォォォォン!!


——己の腕力を使いながら、岩や木々を薙いだのだ。それも、歩く速度をまったく落とすこと無く、だ。


 まるで地表を進むシールドマシンのごとく、障害物のすべてを排除しながら進むワルツたちの後ろ姿に、獣人たちは開いた口が塞がらない様子だった。そんな彼らの考えは、ここに来て、大分変わっていたようだ。……これだけの力を持っている(あるじ)なら、他の人間たちに害されることは無さそうだ、と、


 困惑と驚愕、それに幾ばくかの恐怖と期待を抱えながら、一行は一路(?)、湖畔にある村へと向かって歩き続けた。そして夕暮れ前の時間帯に——、


「ふぅ……やっと付いたわね?」

「だねー?」


——目的地の村へと無事に到着したのである。


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