14.0-28 新天地28
自分たちが転移魔法で堀の向こう側まで送られたことを理解出来ず、獣人たちが大混乱に陥っていると、更なるカオスが町の方から飛んでくる。見知らぬ2人の少女たちが、文字通りに空中を飛んでやってきたのだ。
ゴゴゴゴゴ……シュタッ
莫大な魔力を身体に纏わせ、重力場をねじ曲げながら飛んできたのは、ルシア(とワルツ)だった。ルシアはその場に降り立つと、自分よりも背の高い獣人立ちに対して、気後れすることも無く、堂々と事情を説明する。
「あのまま町の近くにいたら、町の人たちに姿や顔を見られるから、一旦ここまで移動させました。魔物の襲来から生き残ったあなた方が町の近くにいたら、原因を追及されてまた虐められたり、奴隷として扱われてしまうかも知れないですが……それでも戻りたい人はいますか?」
ルシアが問いかけた先にいた獣人たちは、全員が恐怖の色に染まっていた。転移魔法で数十人もの獣人たちを一斉に運んでしまうこと自体が異常だというのに、莫大な魔力を使って空を飛ぶなど前代未聞の話。魔力を耳で感じ取れる者たちには、まるでジェット機のような轟音を立てながらルシアたちが飛んで来たように聞こえていたに違いない。獣人たちの中に、両方の獣耳を押さえて蹲っている者がいる事が何よりの証拠だ。
それ以外にも、獣人たちがルシアに助けられた事を素直に喜べなかった理由がある。隷属を強制する魔道具である"隷属の首輪"は、詳しい事情を知らないワルツが条件反射的(?)に破壊していたので、獣人たちは自由を手に入れることができたものの、その代わり、"主"と言う名の生活の後ろ盾を失ってしまい……。この先、どうやって生きていけば良いか、ほぼ全員が分からなくなっていたのだ。
この国にいる内は、奴隷ではない獣人が歩き回れるほど獣人の権利は保障されておらず、ゆえに働こうにも働き先は無く……。また、自給自足で生きていこうにも、まともな道具を持たないゆえに、山に入って生活をすることも出来なかった。彼ら彼女らは、獣人とは言え、生物学上の分類は"人間"なのだ。毛が生えている分、低温には多少強い程度で、冬は服が必須。逆に高温多湿にはめっぽう弱く、ノミなどの虫が毛の中に入り込むことにも敏感だったので、大自然の中で生活することを考えると、むしろ普通の人間よりも苦手だったのである。
ゆえに獣人たちには、その場で開放された場合、無事に悠々自適名生活を送るというのは実質不可能だった。結果、皆が顔を見合わせて、深刻そうな表情を浮かべる。
そんな中で、ルシアに対して意見をする者が現れる。偶然にも狐の獣人がいて、彼女は、同じ種族(?)であるルシアに対して、他の者たちほどは恐怖を感じていなかったらしい。
ルシアよりも頭一つ分ほど背の高い狐の獣人の少女が、戸惑い気味に口を開いた。
「ちょ、ちょっと待って。町に戻らなかったら、私たち、生きていけないけど、町に戻れないって言うなら、どうやって生きていけばいいの?ご主人様からはごはんを貰えなくて、かといって奴隷じゃなければ働くこともできなくて……奴隷が1人でいるところを見つかればムチで打たれたり襲われたりするのに……私たち、どうすれば良いの?」
対するルシアは、その抗議が飛んでくる事を予想していたらしく、すぐさま2つの選択肢を提示した。
「例えば、他の国に行くって言うのはどうかなぁ?私の転移魔法で送るよ?それか……私たちのところで働く?」
ルシアのその発言を聞いても、ワルツは顔色を変えることも、反論することも無かった。というのも、こういった展開になることはあらかじめ予想出来ていたので、ルシアが魔法を使う前に、相談を交わしていたからだ。
もしも獣人たちの国というものがどこかにあって、そこに行きたいというのなら送るも良し。獣人たちの国などどこにも無くて、どこか平和な国に行きたいというのなら、ミッドエデンに送るも良し。あるいは自分たちのところで働きたいというのなら、新しく作る予定の工房の管理をしてもらうも良し……。
そう考えて選択肢を用意したルシアに対し、狐の獣人の少女が口にした答えは——、
「……なら、私、あなたたちのところで働く。もうあの町には戻りたくないから……」
——ルシアたちのところで働く、というものだった。
もしも狐娘が、一人で生きていきたい、と騒いだとするじゃろ?それをどうにか説得して、やはりワルツの元で働かせるというのが、妾の書く物語の絶対ルールなのじゃ。一旦、狐耳と尻尾を見たら、絶対に逃がしはせぬのじゃ?たとえ誰かに、狂っておるとか、頭がおかしいとか、気を病んでるとか言われたとしても、このルールだけはぜt(以下、3万文字省略)。




