14.0-27 新天地27
微修正。内容に変わりは無いのじゃ。
「い、いったい何が……」
「耳が痛い……」
「ものすごい魔力だった……」
獣人たちは自分たちの命が助かったことなどすっかりと忘れて、突然出来上がった巨大な堀を前に唖然としていた。その際、耳を押さえていた者もいたところを見るに、やはり耳の中に魔力を感知する器官があって、そこで魔力を聞き分けているようである。たとえ毛深くなっても、獣耳周辺のつくりは、ルシアたちとそう大差は無いらしい。
一方、堀を作り出した本人であるルシアと、その立案者であるワルツは、大きな堀を見てこんなやり取りを交わしていた。
「ちょっと深すぎじゃない?」
「お灸を据えることを考えるなら、このくらいが良いと思うよ?簡単に町から出られたら、お灸でも何でもないからね?」
「そうは言ったけど……まぁ、いっか」
巨大な堀を前にして、ワルツとしては、ちょっとやり過ぎではないか、と思えてならなかったらしい。
堀は綺麗に断崖絶壁になっていて、しかも丁寧な事に、側面には補強まで施されていた。ルシアが新居を建てた際に使ったような、表面が滑らかな大理石のような壁が、堀全体に広がっていたのである。つまり、壁に穴を開ける事は困難なので、足場を作って上り下りすることは困難ということ。堀を越えるためには、転移魔法を使うか、200mに渡る橋を架けるか、あるいは特殊な工具で堀の壁にアンカーを打ち込んで足場を作るしかなかった。まったくもって、ひどい嫌がらせである。
「落ちたら死ぬんじゃない?」
「んー、じゃぁ——」ドゴォォォォ!!「——これで大丈夫だよ?オートスペルで回復魔法を地面の底に置いたから、落ちても死なないよ?落ちて地面に当たった瞬間に回復するはずだから」
「便利ね……。そのオートスペルって魔法」
「ずっと置いておくのは無理だけどね。とりあえず、1000人分くらいの回復魔法を堀の底に設置しておいたから、何日か経って見に来たときに下の方に人が溜まってたら、そのときは回収するか、お堀を埋めるか……何か対策を考えようと思う」
「それなら良いわ?……おっと。ルシアの魔法に気付いて、壁の向こう側に人が集まってきたわ?早くずらかるわよ?」
ワルツはまるで、悪いことをしていると自覚があるかのような発言を口にした後で、獣人たちに向かって言った。
「えっと……皆さんには悪いですが、皆さんはここで死んでしまった、ということにしようと思います」
彼女のその発言に、獣人たちは耳を疑った。何しろ、彼女の発言は、受け取りようによっては、ここで殺害すると言ってるようなものなのだ。しかも、ルシアは目の前で強大な魔法を使ったばかり。抵抗が無意味であることは深く考えずとも明らかだったこともあって、獣人たちの顔色は青一色に染まっていく。
そんな彼らの懸念を肯定するような事態が生じる。不意に腕を持ち上げたワルツが、獣人の1人を指差した直後の事だ。
チュィィィィン!!
彼女の指の先から眩い光線が放たれて、それが獣人の首に当たったのだ。
彼女が放った光には、魔力は含まれていなかった。よく考えれば魔法とは別物だとすぐに分かったはずである。それでも、光魔法とそっくりだったためか、獣人たちは処刑が始まったのだと恐れおののく。ある者は逃げ出そうとし、ある者は座りこんで縮こまり、そしてある者は「お、お助けを!!」と命乞いをした。
しかし、それでもワルツの指は止まらない。マシンガンで銃殺するかのごとく、次々に獣人たちの首にレーザーを当てていく。
その内に、獣人たちの1人が気付いた。
「あ、あれ……?首輪が……」ぽろっ
首にレーザーが当たり、確かに熱を感じたはずなのに、首が落ちていないどころか、首に付けていた自身が奴隷である事を示す首輪だけが切断されて地面に落ちたのだ。
その驚きは、更なる困惑と共に、獣人たちの間で広がっていった。そんな彼らに対し、今度はルシアが手を向けた。
ブゥン……
直後、突然景色が変わる。いや、景色自体はさほど変わりは無いが、立っていた位置が直前とは異なっていた。具体的には300mほど水平移動した先の堀の向こう側。そう、獣人たちは一瞬で移動させられたのである。




