14.0-25 新天地25
ドドドドド……
「まぁ!なんという大自然!」
「お姉ちゃん……あれを見て嬉しいの?」
「……冗談よ?モニター越しに見るのであれば、感動したかも知れないけれどね?(……いや、やっぱり何も思わないか……)」
魔物の大移動を見て、ワルツはまるで人ごとのような感想を口にした。それだけ彼女には余裕があるということだ。
一方のルシアの方も魔物の群れが押し寄せてきている様子を見ても、戸惑いこそすれ、恐怖を感じている様子はなかった。むしろ、彼女はこの時、襲い掛かってくる魔物と戦って、どうすれば最小限の犠牲に抑えることが出来るかを考えていたようだ。一歩間違えれば、町どころか、周辺地域ごと破壊して、地図を書き換えなければならない事態になるからだ。
「どうしよう?あれ」
「こっちに何もしてこないなら、放っておけば良いんじゃない?」
「町の人たちは?」
「もう、みんな逃げた後っぽいわよ?壁の中にいる人たちは……まぁ、多分、大丈夫でしょ」
町を取り囲む大きな壁の外側にも、集落が広がっていたのだが、そこには人の気配はまるで無かった。魔物たちの襲撃を事前に知って、町の中か、あるいは魔物たちの襲撃を受けない場所に逃げたのだろう。
そんな場所にワルツとルシアはやってきたのである。彼女たちの事を知らない者たちからすれば、2人が猛獣の檻の中に閉じ込められているのと同じように見えていたかも知れない。
ワルツたちは、自分たちが壁の上にいる兵士たちにどう見られているのか理解していたようである。何しろ、2人が取り留めの無い会話をしている間も、「逃げろ」「止まるな」「走れ」「あっちだ」などと声が飛んできていたからだ。
「ここで逃げないと、変な人たちだって思われるかなぁ?」
「そうねぇ……」
逃げろ逃げろと言われているものの、草原を走って逃げたところで、どこかに身を隠さなければ、そのうちスタミナ切れで魔物たちの群れに飲み込まれるのは間違い無かった(ただし、普通の人間の場合)。ということは、つまり、兵士たちが指差す方向に行けば、何かシェルターのようなものがある、ということなのだろう。
もしもシェルターも隠れる場所も無くて、ただ単に走って逃げろと言っているだけだったなら、後でどうしてくれようか……。ワルツはそんな事を考えながら、ルシアに対してこう言った。
「言われたとおりに逃げましょ?」
「うん。そうだね」
ワルツとルシアはお互いに頷き合って走り出す。
兵士たちが指を差した方向は、町の外周をグルリと取り囲む壁と接線方向。つまり、壁沿いに走って行けば、その先に何かがあるのだろう。
そう判断した2人は、とりあえず走る。ただし、魔物たちから逃げようとする必死な走りではなく、軽いジョギングでもするかのように。
しかし——、
「ぜぇはぁぜぇはぁ……」
「えっと……ルシア?大丈夫?」
「も、も、もう、ダメかも知れない……」
——大した走っていないというのに、ルシアはなぜか満身創痍になっていた。
「ふ、普段、宙に浮かんで移動してるから、走ったらすぐに息切れが……」
「……それ、運動しなきゃダメなやつなんじゃない?」
「う、うん、この前、テレサちゃんにも、そう言われた……」
基本的に魔法使いたちは、身体を使って戦う剣使いや槍使いなどと比べて、体力が少ない傾向にある。身体を鍛える必要が無いからだ。ルシアはその典型例。しかも普段の移動からして魔法を使って移動している彼女にしてみれば、普通の少女(?)を演じるために敢えて重力制御魔法を使っていない現状は、身体を使う運動が辛くて仕方がなかったらしい。
しかしそれでも、ルシアは走った。いや、走ることが出来た。幸い、彼女の横にはワルツがいて、彼女がある程度重力を操り、ルシアの身体を持ち上げたのである。さすがに体重が半分になれば、体力が無いルシアであっても問題無く走れたようだ。
外壁の周囲を走って行くと、2人の目に、とある光景が見えてくる。先ほどとは異なる町の入り口が門に作られていて、そこに人だかりが出来ていたのだ。
「あれってもしかして——」
「あれが——」
「「獣人……」」
集まっていたのは人——に似た完全な別の種族だった。身体が鱗で覆われていたり、全身に毛が生えていたり……。2足歩行はしているものの、明らかに獣寄りの亜人。それが、この大陸に住まう"獣人"と呼ばれる者たちだった。
彼らは町に入れて貰うことが出来ないのか、門の前に集まって、壁の上にいる兵士たちに向かって、救いを求める声を上げていたようである。ワルツたちがやってきたのはそんな場所。2人は戸惑いを隠せない様子で、獣人たちの集まりに近寄っていった。




