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14.0-23 新天地23

 多くの学生たちや教師たちがやって来る気配を察したワルツとルシアは、その場から逃げる事に決めたようだ。まぁ、正確に言えば、その逃走にルシアは関与していない。ワルツがルシアの手を引いて移動を始めたのだ。理由については敢えて言うまでもないだろう。


 ワルツが向かった先は、村を貫く街道とは直角の方向。道無き道が広がる森の方へと歩いて行く。街道からは学生たちが押し寄せてきているので、街道に沿って逃げた場合、鉢合わせになる可能性があると考えたらしく、彼らと会わないルート(?)を考えた結果、森の中を進むことにしたのである。


 3mほどある柵を跳び越え、その先にある獣道を歩き、そして人の気配が無くなったところで、今度はルシアがワルツを呼び止めた。


「お姉ちゃん、もう逃げなくても良いんじゃないかなぁ?近くに人はいないと思うよ?」


「そう……ね」


 ワルツはルシアの指摘を受けて、ようやく立ち止まった。そしてワルツは、最早見えなくなった村の方をどこか寂しげに振り向きながら、ルシアに対して問いかける。


「ルシア……学校行きたい?」


「えっ?」


「ミッドエデンにはまだちゃんとした学校が無かったでしょ?でも、ここならあるんだから、通うのはアリなのかな、って思って」


「学校……学校かぁ……」


 ルシアは学校というものに興味が無いわけではなかった。ただ、学校に通うと言うことがどういうものなのか知らなかったので、少し怖いとも思っていたようである。その2つを天秤に掛けたとき、どちらに傾くかというと——、


「……行ってみたい、とは思うかなぁ?」


——やはり学校に行ってみたいという気持ちが勝っていたようだ。


 ただ、そこには条件があった。


「でも、1人だけで行くのは嫌だよ?この国、獣人の扱いが酷いって言うし……意味わかんないよね?」


 獣人の身分が酷く低いとされるこの国で、一人学校に通えるほど、ルシアの精神は図太くなかったらしい。


「お姉ちゃんも一緒に通うなら、行きたい!」


「私も?」


「今のお姉ちゃんなら、私と同い年、って言っても、多分ごまかせると思うよ?」


「いや……流石にそれはどうなのかしら……」


 ワルツが悩んだのは、行けるか行けないかの問題ではない。プライドの問題である。ルシアよりも年上の自分が、妹と同じ学年になるのはどうかと考えてしまったのだ。ただでさえ見た目が酷く幼く見えている現状においては、特に気にしてしまう事だったらしい。


 そんなワルツとしても、誰か知り合いがいるのであれば、学生生活を満喫するというのも悪くないと考えていたようである。その対象は、プライドの話を取りあえず棚上げにすれば、妹のルシアでも問題は無かった。まぁ、彼女のプライドの話は、この際、置いておくとしよう。


 問題があるとすれば、時間と目的だった。ワルツとしては、失った機動装甲を作り直すことが最優先事項。その際に、自動杖の原理を機動装甲に搭載して、自身も魔法が使えるようになれば良いと考えたというのが、現状なのである。それは必須ではなく、飽くまで希望。学生になる事で時間や行動が制限されて、機動装甲の制作に大きな影響が生じるというのであれば、ワルツは自動杖の分析を諦めて良いと考えていたのだ。新しく作る機動装甲も、従来と同じ機能が搭載されていれば十分だ、と。


 とはいえ、それも度合いの話。ワルツ自身も、どのくらいの時間を浪費して魔法機構の開発に撃ち込むべきかは、判断が付けられずにいたようである。そして、学生というものがどのくらい忙しいのかについても、学校というものに行ったことのない彼女には、まったく分からなかった。


「まぁ、学院がどんなところなのか調べてみるのはアリかも知れないわね……体験入学とか無いのかしら?」


「とりあえず試験を受けて、入学して……それでダメそうだったらすぐやめる、っていうのもアリなんじゃないかなぁ?」


「そうね……。それはアリかもしれないわね……」


 ワルツは頭を悩ませた。それはもう必死に悩ませた。頭に搭載されたニューロチップがオーバーヒートするのでは無いかと思うほどに悩ませたのだが、しかし最適と言える答えには至らず……。


「まぁ、町に行って自動杖とやらがどんなものなのかを確認してから、どうするかを考えましょうか?」


 ワルツは仕方なく、いつも通りに場当たり的な選択肢を選ぶことにしたのであった。


 そんな彼女の頭の中に、コルテックスたちに依頼して自動杖の分析を行うという選択肢が無かったのは、心のどこかで、ミッドエデンから距離を取りたいと考えていたからか。


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