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14.0-21 新天地21

「……どうする?村の近くにいた魔物は全部いなくなったみたいだけど、声かける?」

「お姉ちゃんに任せるけど……でも、良いの?今の姿をあの人たちに見られても……」


 ワルツが杖のことを知りたそうにしていたのは明らかだった。今にも駆け出していきたい気持ちをなんとか抑え込んでいるといった様子である。もしも杖のことが無ければ、彼女は今も草むらに隠れていることだろう。


 そのことを知っていたルシアは、普段とは異なる姉のことが心配でならなかった。ワルツの人見知りの激しさ(?)は筋金入りなのである。このまま勢いに任せて学生たちの元へと駆け寄って行って、姉はちゃんと会話が出来るのだろうか……。ルシアはそんな懸念を抱いていたようである。


 ミッドエデンでは数多くの知り合いを作ったワルツだったものの、彼女が自ら率先して話しかけて繋がりを作った人物は数えるほどしかいない。むしろ数えるほどもいない、と言うべきか。付き合いの古い狩人でさえ、ルシアと共にいたからこそ話しかけられたのだ。ワルツが単独で話しかけられた人物は、恐らく、ルシアくらいのものだろう。


「ぇあっ……」カァッ


「……もしかして、急に恥ずかしくなった?」


「う、うん……」スタタッ


 ワルツは顔を赤面させて、ルシアの影に隠れてしまう。妹の言葉を受けて、好奇心よりも羞恥心の方が上回ってしまったらしい。


 ワルツの行動は、今の彼女の身長も相まって、どこからどう見てもルシア()妹にしか見えなかった。ルシアはそんな姉に苦笑を向けながら、続けてこう問いかけた。


「じゃぁ一緒に聞く?」


「た、頼むわ……」


「杖のことを聞けば良いの?」


「え、えぇ……。どこで売ってるのかとか、原理はどうなっているのかとか、どうやって作れば良いのかとか……」


「売ってる場所は教えてくれるかも知れないけど、作り方とか原理とかまでは、あの人たちに聞いても分からないんじゃないかなぁ……」


 そう言いつつ、ルシアはワルツの手を引いて、学生たちの方へと歩き寄っていった。


 そして、十分に声の届くところで立ち止まってから、学生たちに向かって話しかける。


「えっと……もう、魔物はいなくなっちゃったみたいだから、警戒を解いても良いと思うよ?」


 ルシアのその問いかけを聞いて、学生たちはお互いに顔を見合わせ、そして村の周囲に向かって視線を向けた。それから、本当に魔物たちの影も形も無くなっていることを察して、ようやく警戒を解く。


 その後で、ルシアに話しかけてきたのは、学生たちから委員長と呼ばれていた女学生だった。彼女はホッとしたような表情を浮かべながら、ルシアに向かって問いかけた。


「さっき木を吹き飛ばしたのって……もしかして、あなたの魔法?」


 女学生の問いかけに、ルシアは少しだけ考えてから、端的に返答する。


「いえ、()()魔法じゃないです」


「そう……。なら、あれはなんだったのかしら……」


 ルシアは余計な事は言わず、自分の魔法ではないことだけを口にした。対する女学生たちは、ルシアの魔力も、ワルツの力も知らないためか、ルシアの言葉を鵜呑みにしたようだ。直前まで極度の緊張状態にあったことも、学生たちの思考を鈍らせていた原因の一つになっていたと言えるだろう。


「ところで……それって杖ですか?」


 ルシアが本題に切り込む。ちなみにワルツは、ルシアの服の袖をギュッと握りしめ、妹役(?)を演じ中である。


「杖?あぁ、これね」


 そう言って女学生は自身の手元に視線を向けた。


 そこには、ずんぐりむっくりとした銃——というよりは、どちらかというと、大きめの水のタンクが付いた水鉄砲のようなものがあった。一見する限り、杖とは似ても似つかない形状をしていたものの、一応分類上は"杖"で合っていたらしい。


自動杖(じどうじょう)って見たこと無い?この国では一般的なのだけれど……」


「いえ、初めて見ました」


「そう……じゃぁ、やっぱり、あなたたちはこの国の子じゃないのね?」


 問いかけられたルシアは、思わずミッドエデンから来た、と答えそうになる。しかし、彼女は、すんでの所で思いとどまると、首を横に振った。


「ごめんなさい。よく覚えていないんです……。国のことも、杖のことも……」


 彼女は今、自分たちが記憶喪失であるという設定でこの場にいて、村の人々にもその旨を話をしてあるのだ。ならここで、ミッドエデンから来た、と答えるのは、記憶喪失であるという設定と矛盾することになり、話が面倒な事になるのは明らかだった。


 対する女学生は、ルシアのその言葉を聞いて、やはり疑うこと無く受け入れたようである。もしも彼女がルシアたちの事を疑っていたなら——、


「自動杖っていうのはね——」


——自身の杖の話などしなかったはずだからだ。


うーむ……頭が回らぬのじゃ……。

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