14.0-18 新天地18
サルの魔物たちは一度に押し寄せてきたわけではない。まるで、事故現場を目撃した野次馬が徐々に増えてくるかのように、ゆっくりと、しかし確実に増えていったのだ。
彼らは村を囲む樹の上で、酷く興奮した様子で跳ねたり、音を立てたり……。ただ、不思議と村の中には入って来る事はなく、何かを警戒するかのようだった。
そのせいか、彼らの間でストレスが溜まっていったらしい。数が増えるに従いサルの魔物たちの間で興奮状態がエスカレートし、一部に——、
カンッ!
ベチャッ!
——村に向かって木の枝や石、あるいは汚物を投げ始める者たちが現れる。
見る見るうちに状況が悪化していく様子を目の当たりにしながら、ルシアは心の中で考えた。
「(村だけ残して、森ごと消し飛ばす……?ううん、そんなことしたら、力を使うのを自重するっていうお姉ちゃんとの約束が守れなくなっちゃうし、ただ騒いでるだけの魔物をそんな簡単に攻撃したら可哀想だし……)」
魔物たちに囲まれている中でも、ルシアは冷静だった。これまで幾多の苦難を乗り越えてきた彼女にとって、数百、数千程度のサルに囲まれることなど、大した事ではなかったのだ。
それはワルツも同じだった。彼女は未だに茂みの中に隠れながら、学生たちが村から出て行ってくれないかと祈りつつ、小さくなっていたようである。彼女にとっては、サルたちの存在など、眼中にすらなかったと言って良いかも知れない。
しかしである。ワルツやルシアたちにとってはどうでも良い状況であっても、学生たちや村人たちにとっては危機的状況以外の何者でもなかったようだ。特に、学生たちは顔を青ざめさせながら、円陣を組みつつ、周囲を警戒する。
「委員長!俺たちだけじゃ無理だ!先に行った先生方を呼び戻そう!」
「俺たちだけが生き延びるならどうにかなるが、村の人たちまで守りながら戦うのは無理だぞ?!」
「まずは村の人を避難させることが先だろ?!」
「委員長!」
「委員長!」
学生たちの視線は、一人の女学生へと向けられていた。彼女はルシアに対して誰何をした人物。やはり彼女が、村に留まった学生グループの中心人物だったらしい。
学生たちから委員長と呼ばれていた女学生は、一瞬だけ考え込んでから決断を下す。
「これだけのサルの中を突っ切って先生を呼びに行くのは無理よ。だから……誰か余力がある人!村が襲われていることを先生か他の生徒かに気付いて貰えるよう、火魔法を打ち上げて!」
「じゃぁ、俺がやる!」
「村人たちの避難誘導は——」
「私がやるわ!」
「お願い。他の皆は、グラッジモンキーたちの暴走に備えて、ひたすらに防御!」
「「「了解!」」」
学生たちは胸元から何かを取りだしてそれを構えた。どうやらこの国で使われている"杖"らしい。村人たちも、その"杖"を見ても何も言わなかったところを見るに、この国では一般的な"杖"なのだろう。
ただ、ルシアとワルツは違った。
「「(あれって……)」」
金属の筒に取っ手がついたような物体……。それはまさしく拳銃だった。ただ、弾を込める弾倉は存在しないようで、その代わりにこぶし大の宝石のようなものが取り付けられていたようである。
その"杖"を最初に使ったのは、援軍を呼ぼうとしていた男子生徒だった。彼は空に向かって"杖"をかざし、トリガーを引いたのである。
パシュッ!!
そんな乾いた音を上げながら、一筋の光線が空へと消え……。そして打ち上げられた弾(?)が——、
バンッ!!
——と爆ぜた。
彼のその魔法は、本来、助けを求めるためのものだったのだが、どうやらサルたちに対しても影響を与えてしまったようである。音に驚いたサルたちの間で、一斉に興奮が高まり、少なくない数のサルたちが投石を始めたのだ。
それは当然の成り行きだと言えた。委員長と呼ばれた女学生も、サルたちに囲まれた中で火魔法を使えばどうなるか分かっていたからこそ、全力で防御に徹するよう指示を出したのだから。
ただ……。ここで1つ例外が生じることになる。その出来事は、女学生も、さらにはルシアも予想出来なかったに違いない。
ガサッ!
「何その面白そうなやつ!」きらきら
今まで草むらに隠れていたワルツが、突然、目を輝かせながら立ち上がったのだ。どうやら彼女は、学生たちが持っていた"杖"に興味が湧いたようである。
今まで魔法を使えなかったワルツが、アップを始めたようなのじゃ。




