14.0-17 新天地17
「(……この国の獣人って何なんだろ……)」
ルシアはふと疑問に思った。……いま自分たちがいる国において、獣人の定義とは何か。村人たちや、朝に襲ってきたジャックとミレニアたちの反応を見る限り、一応自分も獣人の範疇に入るのは間違いなさそうだが、自分はなにかを勘違いしている気がする……。自身の予想とは異なる反応を見せる学生たちを見たルシアは、そんな確信めいたものを感じていたようだ。
いずれにしても、学生たちが、ルシアの事を人間だと発言したおかげで、直前までルシアのことを支配していた怒りは、いまではだいぶ和らいでいた。そのせいというべきか(?)、学生たちの前に出たルシアが、いきなり魔法を放つという展開にはならず……。彼女は冷静に抗議の言葉を口にすることが出来た。
「さっきから聞いてたら、みんな好きなこと言ってるけど、私、奴隷でも何でもないし!」
ルシアはそう言って頬を膨らませた。
対する学生たちは、皆、ぽかーんとした表情を浮かべて、一斉に顔を見合わせると、そのまま何やら話し込み始めた。どうやら、彼らは同じグループ——あるいは同じ班に属する一団だったらしく、顔を見合わせながら相談する程度には仲が良かったらしい。
ルシアは、その様子を訝しげに眺めつつ、後ろの茂みから出てこない姉の方を振り返って——、
「(お姉ちゃん、出てこないの?)」
「(いやー、私、ほら、人見知りが激しいし……こういうシチュエーション、苦手なのよ……)」
「(そういえば前にもそんな事言ってたね……)」
——姉とそんなやり取りを交わしていると……。
「あなた、この村の子?初めて見るのだけれど……」
相談を終えた学生の一人が——真面目そうな女学生が、ルシアに対して質問した。
ルシアはその問いかけに対し、どう返答するかを悩んだ。厳密な意味で言うなら、ルシアは村の人間ではない。ミッドエデン共和国の人間だ。
ただ、これから先、彼女は、しばらくこの村に腰を据えたいと考えていた。そう言う意味では村の人間だと言えなくもなかったが、村人たちに未だ受け入れられた気配は無いので、やはり村の人間だと口にするのは嘘となってしまう。
結果、ルシアは——、
「……迷子でこの村に辿り着いただけ。これからここで暮らしたいと思ってるところ」
——ワルツと決めた設定をそのまま口にすることに決める。
対する女学生は、どこか優等生な雰囲気を見せながら、こんな言葉を口にした。
「あら、迷子だったのね……。てっきり、学院から逃げ出した子だとばかり思っていたわ?」
「学院?」
「あら、学院も知らなかったの……。もしかしてこの国の子じゃないのかしら?まぁ、身なりの良い獣人だし、っていうかむしろ人にしか見えないし、ありえるわね……。えっと……学院って言うのは、あの建物よ?」
色々とブツブツと言った後で、女学生が指を差した先にあったのは、高台に作られた大きな城のような建物だった。村からは少し見えにくかったが、木々の隙間からどうにか見えたようである。
「あれ、お城じゃなかったんだ?」
「昔はお城だったって聞いたけれど、今は違うわ?中央魔法学院。レストフェン大公国にける魔法の最高学府よ?そして私たちはあの学校の学生。まぁ、まだ初等部だけどね」
女学生はそう言うと胸を張った。そんな彼女の胸には、金色に輝くドラゴンの紋章があって、それが学院の生徒である事を示す証拠らしい。胸を張った女学生が、とても誇らしげだったところを見るに、中央魔法学院に入るには狭き門を潜らなければならないのだろう。
「なるほど……」
大分、状況が見えてきた……。ルシアがそんな事を考えたときである。
ガサガサガサ……
村を取り囲む周囲の森が、なにやら騒がしくなった。どうやら——、
「げっ?!い、委員長!奴らが追ってきたみたいだ!」
「またグラッジモンキー?本当にしつこいわね……。とにかく、全員戦闘準備!村を守るわよ!」
——学生たちを追いかけて、サルたちが村へと押し寄せてきたようだ。




