14.0-15 新天地15
村へとやってきたのは、ルシアよりも少し年上の少年少女たちだった。皆、同じデザインの服装を身につけているところから察するに、どうやら彼らが"学生"らしい。朝方、村へとやってきたジャックやミレニアたちも同じデザインの服装を身につけていたことから、彼らと同じ学院の生徒なのだろう。
そんな学生たちは、どこかくたびれていた。疲れ切って、消耗して、今にも倒れそうな表情を浮かべている者までいる有様だ。怪我をしている者までいることから、恐らくは魔物たちと戦闘を繰り広げてきたのだろう。
彼らの様子にいち早く気付いたワルツとルシアは、咄嗟の判断で物陰に隠れて、様子を伺うことにしたようだ。今朝のジャック、ミレニアの件もあったので、見つかると面倒な事になりそうだと思ったらしい。
隣家の影に身を潜めたワルツたちは、それぞれに学生たちに対する感想を口にする。
「(なんか、ボロッボロだね……)」
「(あれじゃない?湖の対岸で戦ってた人たち。たしか、彼らと同じ恰好をしていたと思うわ?)」
「(ふーん。ってことは、あんなにボロボロになってるのは——)」
「(おっと、ルシア?人聞きの悪いことを言っちゃダメよ?)」
「(う、うん?まだ何も言ってないけどね……)」
学生たちがボロボロになっているのは、自分たちが岩を投げたせいではないか……。ルシアはそんな発言をしようとしていたようだが、ワルツに止められて言葉を飲み込んだようだ。
「(多分、サルたちに攻撃を受けたんでしょ。きっとそうに違いないわ?)」
「(そ、そうだね……)」
普段通りに煮え切らないやり取りをしながら、ワルツとルシアが学生たちの様子を伺っていると、彼らは村の中を通って、そのまま村を抜けて出ていくようだった。村を貫く街道の先には、高台の上に作られた城のような建物があって、学生たちはそこを目指して歩いているらしい。
「(あの人たち、学生で良いのかなぁ?)」
「(多分ね。きっとあの山の上の建物が学校か何かなんでしょ。学校としてありきたりな立地よね……。交通の便が悪い山の上に作られるって、全世界共通なのね……)」
「(うん?何の話?)」
「(いいえ?何でもないわ……)」
ワルツ本人は学校に行ったことはないが、現代世界の常識(?)として、学校が辺鄙な場所に作られることを知っていたらしい。
まぁ、それはさておいて。物陰に隠れたワルツたちは、学生が村から出て行くのを、じっと待っていたようである。幸い、学生たちの大半は、疲労の度合いが限界を超えかけていたためか、真っ直ぐに村を抜けて出ていったのだが……。ごく一部に、村の中で立ち止まる者たちがいた。
「ねぇ、ちょっと何これ……このまえ来た時までは無かったわよね?」
「新しくできた建物……にしちゃ、随分と浮いたデザインの建物だな……」
「これだけ石造り……っていうか、入り口ねぇぞ?この建物……」
「いやむしろ、岩の固まりじゃねぇか?どうやって運んできたんだ?」
ルシアが作った家の防護壁(?)に気付いて、立ち止まる者が何名かいたのだ。
その様子を見て、ワルツが頭を抱えていると、彼女たちが隠れた光景を見ていた村人たちが、何か言いたげな反応を見せる。差し詰め、なぜ隠れているのか、学生たちに事情を説明してはどうか、などと考えているに違いない。
そんな村人たちに気付いたワルツは、日本人らしく顔の目の前でふんふんと手を振ると、口許に指を当てる。そのジェスチャーが村人たちに通じたかどうかは定かでないが、一先ず彼らは、ワルツたちが隠れている事を学生たちに伝えるような事はしなかったようだ。
むしろ、村人たちが何か行動を起こす前に、事態が動いたと言うべきかもしれないが。
「こんにちは、村長さん。これ、なんですか?このまえ来た時には無かったように思うのですが……」
学生の一人が、ワルツたちの家の近くにいた村長に気付いて、事情を問いかけたのだ。
結果、ワルツは物陰から、村長に向かってプレッシャーを浴びせかけるのだが、機動装甲を失った彼女に精神的ダメージのある殺気を放つことは出来ず……。
「……あぁ、これはじゃな——」
ワルツは村長が喋ることを止められなかったのである。
村長「これは豆腐じゃ」




