14.0-13 新天地13
その後も、何事も無かったかのように、ワルツたちは村の周辺の散策を続けた。
森の中にはサルのような魔物の他に特に脅威に感じられるような魔物はおらず、またサルたちの方もワルツとルシアにちょっかいを掛けるような事はしなかったので、2人はとても有意義な散歩の時間を楽しめたようだ。
問題は、村に帰って来たところで生じることになる。いや、問題自体は、すでに起こった後だった、というべきか。
「「なに……これ……」」
村の家々が、まるで暴徒の集団に襲われたかのように半壊していたのである。窓には大きな石が投げ込まれ、壁には汚物のようなものがぶつけられ、屋根の板は剥がされ……。そんな状況に襲われた村の人々は、為す術無く立ちすくんでいるようだった。
幸い、ワルツたちの新しい家には、傷一つ無かった。それどころか、村を出発した時と同じように、汚れ一つ無かった。傷ついた村の家々の中、まるで豆腐のように四角くて白い家だけが、悠然とその姿を保っていたのである。
その様子を見て、ワルツは察した。
「あぁ、サルの仕業ね……」
「お猿さん?」
「えぇ。あんな屋根の上まで上がってわざわざ板を剥がすとか、人間ならやらないもの。それにこの周辺で見かけた魔物って、サルの他は、見かけ倒しのワイバーンか、ウサギかリスくらいのものだし、消去法的にもサルしかいないでしょ。まぁ、見た目は小鳥だけど、中身は猛獣みたいな、見かけによらない魔物もいるかも知れないけど、あんなのが村を襲ったら、ここ、更地になってるはずだし、やっぱり原因はサルでしょ」
サルは見かけ通りの魔物だろうか……。そんな一抹の不安を覚えながら、ワルツはルシアの手を引いて村の中へと入っていく。
すると、村の人々が2人の姿に気付くのだが……。
ザワザワザワ……
村人たちの反応は、今朝と少し違って、2分されていたようである。今朝と同じくワルツたちに訝しげな視線を向けてくる者たちと、何か迷っているかのような視線を向けてくる者たちの2種類だ。
その微妙な変化に気付きながらワルツたちが村の中を歩いて行くと、自宅前に人だかりが出来ている様子が見えてくる。村長(?)を始めとした一団が、ワルツたちの自宅前で何やら険しい様子で口論していたのだ。
「どこの馬の骨とも分からないあのような子供たちに、助けを求めるなど、言語道断です!」
「いやいや、この村に住むというのなら、労力を提供して貰うというのは当然のながれじゃろうて」
「そもそも、彼女たちに労力など期待出来るのでしょうか?」
「家をたったの一晩……いいえ、一瞬で建てるほどの未知の魔法を使えるのよ?今は要塞っぽくなってるけど……。やっぱり"学生"かもしれないわ?」
「昨日、連中の"ボス"を一瞬で狩ってるのを見たから、力があるのは間違い無いはずだ」
「むしろ、そのせいで連中は暴走したのではないのか?」
「だから村が襲われたのか!」
「まぁ待て。結論を急いでは——」
話が焦臭い方向に進んでいるのを察して、ワルツが眉を顰めていると、相手側もワルツたちが帰ってきたことに気付いたらしく、一斉にワルツたちの方へと視線を向けてきた。
その視線はやはり、半分が批難めいた視線で、もう半分は困惑の視線。いずれにしても、ワルツたちに対して何か言いたい事がありそうな様子である。どうやら村全体で一枚岩の考えを持っているわけではないらしい。
ただ、意思決定の方法は決まっていたようで……。ワルツたちに向けられていた視線が一旦外されると、今度は村長(?)の方へとその視線が向けられることになる。議論が紛糾した場合、最終的な決定権は村長(?)にあるのだろう。
そして、しばらく考え込んだ村長が下した結論は——、
「……お二人に伺いたいことがございます」
——拒絶するでも、助けを求めるでもなく、疑問を投げかけるというものだった。




