14.0-11 新天地11
身体に付いた煤を落とした後、ワルツとルシアは再び家の外へと繰り出した。散歩に出かけるつもりでいたのだ。
その際、ルシアは家に細工を施す。この村は、田舎の割に、治安があまり良さそうではなかった(?)からだ。
ズドォォォォン!!
彼女は家の周りに土魔法で塀を作った。それも、四方を取り囲むだけではなく、天井すらも覆い尽くすような壁を。むしろ、箱、といっても良いかも知れない。
「これで、鍵を掛けなくても良いよね?」
「ちょうど鍵が無かったからどうしようかと困っていたところだし、助かるわ?」
ワルツもすっかり常識を忘れた様子で相づちを打つ。
ただ、常識については忘れつつあったものの、自重という言葉はなんとか覚えていたようだ。
「でも、人の目があるときは、あまり魔法を使わないようにしましょ?さっきみたいにいきなり絡まれる事があるかも知れないし……。私も人前では力を使わないようにして、できるだけ普通の人を演じるようにするからさ?」
「うん……それはいいけど、お姉ちゃん、どこからどう見ても、普通の人だと思うよ?ほら、さっきのジャックって人も、お姉ちゃんのことを"町娘"って言ってたし」
「そ、そうかしら?」カァッ
「う、うん……(普通の人って言ってるだけなのに、なんで嬉しそうなのかなぁ……)」
いったい何を喜んでいるのか……。ルシアは疑問に思ったようだが、あまり深くは考えないことにしたようだ。
それから2人は村から外へと出た。この間、当然と言うべきか、2人は誰にも会ってはいない。
村を取り囲む柵から外に出ると、そこには青々とした森林が広がる。よく手入れが施された針葉樹林の森だ。
地面にはあまり背の高くない草木が生えていて、小さな花々が森の向こう側まで群生していた。まるで、広大な公園の中を歩くようにして、2人は森の中を散策していく。
「ふーん。散歩するには良いところだけど……」
「なんか物足りないよね……。山菜や薬草は所々にあるけど、ヤマブドウみたいな果物がなる木は無いっていうか……」
2人はチラチラと周囲を見渡しながら森の中を歩いて行くが、やはり人の手が入りすぎているのか、自然らしさはあまり感じられなかった。
その内に、キラキラとしたものが、木々の隙間に見え隠れしてくる。
「あっ!湖だよ!お姉ちゃん!」
空を飛んでいたときに村の近くに見えた湖だ。湖に気付いたルシアは、湖畔へと駆け出していく。ワルツもそれを追った。
「わぁ……綺麗……」
「あ、魚が泳いでいるわ?昼食にどうかしら?」
「お姉ちゃんって強かだよね……」
2人がやって来た湖は、水が澄んでいて、水中の石に苔が生えている様子を見て取ることができた。その苔の中に隠れている虫でも食べているのか、小魚が数多く泳いでおり、その小魚を狙っているのか、1m程の大きな魚影も見ることができたようだ。
ワルツはその大きな魚を狙い、ルシアも何だかんだといいながらも姉の手伝いをしようとしていたようだが、2人が水上に立とうとしたところで、湖を取り囲む周囲の森で異変が生じる。
バサバサバサ……
森の中にいた鳥たちが、一斉に飛び立ったのだ。
「わぁ……ここにもワイバーンがいるんだね?」
「あれが人畜無害な魔物っていうのが、未だに信じられないわ……」
群れを成して飛び立っていく身体の大きなワイバーンを見送っていると、今度は——、
ズドォォォォン!!
——森の中で大きな土煙が上がった。どうやら何か大きな物体が森の中で暴れているようだ。




