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14.0-10 新天地10

 ワルツがグッタリしたまま動かず、ルシアもどうして良いのか分からなくなっている中、誰が何をしなくとも、事態は勝手に進んでいく。ジャックと呼ばれた少年が、ようやく我を取り戻したのか、フラリと立ち上がって、ルシアに向かって言ったのだ。


「い、今のは事故だ!恨むなら自分の正体を隠そうとした自分自身のことを恨め!」


 魔法を放った本人であるジャックはそう言って、ルシアたちに背を向けた。どうやら彼には、それなりの社会的な地位があるらしく、黒焦げになったワルツを放置してその場から立ち去ろうとしても、村人たちは誰も呼び止めようとはしなかった。おそらくは貴族か、それに類する地位を持っているのだろう。


 彼と一緒に来たミレニアという少女も、どこか申し訳なさそうな表情をルシアやワルツに向けていたものの、戻って行ったジャックを追いかけて、その場から立ち去っていった。周囲の村人たちが彼女のために道を開けていたところを見るに、彼女もまた貴族なのかも知れない。


 そして、その場には、ルシアと黒焦げのワルツ、それに村人たちだけが残されることになる。そんな中で、村人たちから視線の集中を浴びていたルシアは、何と答えるかを悩みに悩み、頭が真っ白になって……。結果、プルプルと震えていた口から、こんな言葉が漏れ出した。


「は、初めまして!今日からここで暮らすことになったルシアです!」


 すぐそこで連れの少女がプスプスと音を上げながら黒煙を上げているというのに、それを気にする様子の無いルシアの発言に、その場の空気がカオス色(?)に染まっていく。


「おい、あの子、大丈夫か?」

「妹さん……なのか分からないけれど、目の前で殺されちゃったんですもの。ショックのあまり混乱しているんじゃないかしら?」

「獣人ではあるが……可哀想に……」


   ザワザワ……


 自身の発言によって広まっていく誤解を肌で感じていたルシアは、どうして良いのか分からなくなって、いよいよ泣きそうな表情を浮かべた。そんな彼女の鬱憤は、黒くなっていたワルツへと向けられる事になる。ルシアは、いつまでも起きない姉のところに駆け寄って、彼女の肩を掴み、力の限りその身体をガクガクと揺すった。


「ちょっとお姉ちゃん!すぐ起きて!お姉ちゃんが起きないから、みんな誤解してるよ?!」


「(……やっぱ起きなきゃダメ?)」


「ダメ!絶対!」


「……しゃぁないわね」


 そしてワルツは、むっくりと起き上がった。


 その瞬間、村人たちの間に動揺が走る。死人が生き返ったと大騒ぎになったのだ。


 当然の反応だった。魔法を受けたワルツは、凄まじい勢いで上下左右にグルグルと回りながら宙を舞ったのだ。そんな、一般人ならまず間違い無く大怪我を負うか、死んでいて当然の状態で、10mほど吹き飛び、更に家の壁に当たって頭から地面に落ち、そして真っ黒焦げになっていたのである。どう見ても死んでいて当然の状態の彼女が、何事も無かったかのように起き上がれば、誰だって取り乱してしまうことだろう。


 尤も、彼女の事をよく知っているルシアからすれば、単に傍迷惑な話だったようだが。


「ちょっと、お姉ちゃん!皆、困っちゃってるよ?お姉ちゃんが変な事するから……」


「あー、ごめんごめん。あの2人に手っ取り早くお帰り願うためにはあれがベストな選択肢だと思ったのよ。実際、いなくなったでしょ?」


「そりゃそうだけど……」


「結果オーライよ?結果オーライ。さて、せっかく村の人が皆集まった事だし、挨拶を——」


 そしてワルツは気付く。つい先ほどまで自分たちの行動を見ていたはずの村人たちが、いまや誰一人としていなくなっていた——いや、みな逃げ出していた事に。


「……まぁ、とりあえず、黒焦げになった服を洗ってから、その辺の森を歩き回ってみましょうか?」


「う、うん……そうだね……」


 色々言いたいことがある様子だったものの、ルシアはグッと飲み込むと……。何食わぬ顔で家に戻るワルツの後ろに付いて、自身も家に入っていったのであった。


ワルツのリアクションについて行けるくらい、ア嬢は成長したのじゃ。

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