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14.0-08 新天地8

「なんだよ。強え魔力を持ってるやつがいるって聞いたから来てみれば獣人かよ」


「えっ……私の事?」

「うわ、獣人を獣人だって蔑んで見る人、初めて見たわ……。耳と尻尾が生えてるだけなのに……」


 ルシアに対して失礼極まりない発言をしたのは、ルシアよりも少し年上くらいの少年だった。年齢的には大きかったころのワルツと同じくらいといったところだろうか。


 そんな彼の発言に、ワルツたちは思わず面食らった。ミッドエデンがあった大陸にいた頃は、人と魔族との間で種族的な(いさか)いはあっても、人族と獣人族との間に諍いは無かったからだ。


 2人が目を丸くしていると、少年の後ろから別の声が上がる。


「ちょっと待ちなさいよジャック!様子を見るだけだって言ってたじゃない!自分から出ていくとか、何考えてるのよ!」


 そう言いながら、村人の隙間から割って出てきたのは、ジャックと呼ばれた少年と同じくらいの年齢の少女。2人とも同じデザインの服装を着ているところをから推測すると、同じ機関に属する人物同士らしい。恐らくは、村人が口にしていた"学生"なのだろう。


「ミレニア。お前だって知ってるだろ?この国じゃ、獣人なんて奴隷以下の存在だって。碌に魔法なんて使えない筋肉馬鹿みたいな獣風情が、近所の村を荒らしてるんだから、俺たちが懲らしめるっていうのは当然のことだろ?」


「あの子が筋肉馬鹿に見えるの?それにあの恰好、奴隷には見えないわよ?」


 ミレニアと呼ばれた少女は、そう口にしながらルシアを見つめた後、次にワルツの方に視線を向けた。その際、何か困ったような表情を浮かべていたのは、彼女の服装が特殊だったから、なのかも知れない。


 この時、ワルツは、この世界における服のデザインとはかけ離れたデザインの服を着ていた。もちろん、サイケデリックな色合いの服だったり、前衛的なデザインの服、というわけではない。手術着を普段着に変えたようなデザインの服で、ほぼ真っ白な服装。飾りっ気なし。しかし、適当なデザインというわけではなく、彼女の白に近い金髪との兼ね合いもあって、ワルツの全体の見た目として調和の取れたデザインになっていた。見た目は絵に描いたような天使に近いと言えるかも知れない。


 ただ、その表情は天使とはほど遠く、酷く不機嫌。まるで値踏みをするかのようなミレニアとジャックの視線を前に、ワルツは頬を膨らませた。


 それが影響したのかどうかは不明だが——、


「……多分、あの子も只者じゃないと思うわ?」

「その辺にいる町娘と大差無いと思うけどな……」


——ジャックとミレニアは、ワルツに対してそんな印象を抱いたようである。その際、ワルツが、ジャックの発言に、少しだけ嬉しそうな表情を浮かべたようだが、彼女の微妙な表情の変化に気付いた者はいなかったようだ。


 それからジャックは再び敵意丸出しで、ルシアに向かって指を差す。別にワルツに指を差しても良かったようだが、ルシアの方が頭一つぶん背が高かったので、ルシアの方に主導権があると考えたらしい。


「お前、どこの何者だ!それ如何によっては、ここで斬り捨てる!」


 そう口にするジャックの発言に、ミレニアは眉を顰めてこそいたものの、反対するようなことはしなかった。ルシアたちが不審人物であり、村の人々からも警戒されているのは紛れもない事実。そして、"学生"には、不審人物に気概を加えても良いと言う法律のようなものでもあるのだろう。


「どうしよ?お姉ちゃん……。ミッドエデンの勇者って、恥ずかしくて言いたくないんだけど……」

「あっ、やっぱり恥ずかしかったのね……。まぁ、しゃぁないんじゃい?昨日打ち合わせたとおりに言い訳を突き通しましょ?」


 2人の間だけで聞こえる声でそう会話を交わしてから……。ワルツたちは揃って言った。


「避難民です!」

「町娘です!」


「「……えっ?」」


 ワルツとルシアが顔を見合わせた瞬間だった。ジャックの指先から火球が放たれる。どうやらワルツたちの返答はジャックのお気に召さなかったようだ。


いつもの展開なのじゃ。

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