6序-09 ルシアの奮闘1
またまた時間は遡り、ユリア達が人知れず王都を旅だった頃の話である。
いや、もっと正確に言うなら、ルシアがストレラ達にお土産を転移させた時のことである。
議長室にいるコルテックスとアトラスに、お土産を持ってきていたルシアに対して、
『んじゃ、エンデルシアに行った時のお土産を転移させるから、受け取ってくれるかしら?ルシア?聞こえてたでしょ?』
ワルツからの連絡が入った。
「うんわかった。じゃぁ、アトラスくん。コレ切って」
と言いながら、ドン!とバームクーヘンの原木(?)を机の上に置くルシア。
「いや、別にいいけど、ルシアが切ったほうが早いんじゃないか?」
と言いつつも、給仕用の道具が入った棚から、1200mm卸包丁を取り出すアトラス。
なお、シラヌイ製ではなく、ワルツ製である。
・・・一応、武器ではない。
「私が魔法使ったら、この部屋壊しちゃうもん・・・」
「ま、壊れて困るようなものは無いと思うけどな」
アトラスが包丁をバームクーヘンに突き立てながら言うと、
「そうですか〜。では、クローゼットに仕舞ってあるボードゲームの類もいらないということですね〜」
と言いながら、徐ろに件のボードゲームの入った箱を取り出すコルテックス。
「いや、うん。困る。困るって。ちょっ、頼むから、バルコニーから捨てようとしないでコルテックス!」
アトラスは暇な時(大体いつも)に、文字通り暇つぶしとして、ストレラやテレサ、それに最近はルシアとボードゲームを使って遊んでいた。
まぁ、そこにいつも忙しいコルテックスは含まれていなかったが。
「クスッ・・・」
「んあ!?何がおかしいんだよルシア!」
「・・・なんか、仲がいいなぁー、って思って」
「コレのどこを見て仲がいいって言えるんだよ・・・」
少し泣きそうな表情を浮かべながら、頭を傾げるアトラス。
そのせいで、少々手元が狂い、バームクーヘンが妙に大きく切れてしまったが、原木全体から見れば微々たるものなので、問題は無いだろう。
「・・・あ、それと・・・」
ルシアはそう言いながら持っていたバッグの中を弄って、
「これと、これと、これと・・・あと、これかな?」
4つの湯呑みをバッグの中から取り出した。
「えっとね。これがコルちゃんの」
「ありがとうございます」
ルシアから湯呑みを手渡されるコルテックス。
湯呑みに書かれた文字を見て、彼女の笑顔の種類が切り替わる。
「・・・どうして、『女王様』って書いてあるんでしょうか〜?」
「んとね〜。テンポが選んできたものだから、分かんない」
「そうですか〜。『テンポお姉さま〜?後でお話があるんですけど少しお時間をいただけますか〜?拒否権は認めませんよ〜?』」
笑みを浮かべながら無線機に呼びかけるコルテックスの周囲に、何故かドス黒いオーラのようなものが見えているのは気のせいだろうか。
なお、テンポからの返信は無かった。
どうやら、最初から聞かなかったことにすれば拒否権など関係がない、と考えたようである。
「それでね。アトラス君のはこれ」
「・・・なんて書いてあるのか想像つくけどな」
アトラスがルシアから受け取った湯呑みを回して、書いてあった文字を見てみると、
「・・・あれ?『弟』?」
『愚弟』と予想を付けていたアトラスだったが、意外にもまともであったため、肩透かしを喰らった形になった。
オーダーメイドではなかったために、『愚弟』と書かれた湯呑みは売っていなかったのだろう。
・・・まぁ、『女王様』があるのは甚だ疑問だが。
「でね。これがレラちゃんので、これがカノープスさん」
『・・・なるほど』
ストレラの湯呑みはともかくとして、カノープスの湯呑み(『お爺ちゃん』)に納得する2人。
「じゃぁ、いくね」
ブン・・・
ルシアが、切られたバームクーヘンと2つの湯呑みに手を翳すと、それらは突如として虚空へと消えていった。
「あとねー・・・」
ストレラ達への土産の転移輸送が終わったというのに、まだバッグの中を弄るルシア。
そして、
「はい、これ」
ルシアは色とりどりの小さな紙が重なった紙束を取り出した。
「なんか、お姉ちゃんが、リアお姉ちゃんの治療のために使うから、これを2人に渡してって言ってたよ?」
「・・・なるほど」
「分かりました〜」
すると紙束から200枚ほどを取り分けるコルテックス。
「アトラス〜?これをどうぞ」
そして、半分ほどをアトラスに渡した。
「・・・マジか・・・」
「はい。いつも時間が余っていますよね〜?」
「いや・・・うん・・・否定はしないけど・・・」
そう言いながら、ゲンナリとするアトラス。
「ねぇ、コルちゃん?お姉ちゃんは治療に使うって言ってたけど、これ、どういう風に使うの?」
紙の束を何に使うのか分からない様子のルシア。
「これはですね〜・・・」
コルテックスはそう言いながら、1枚の紙を手に取り、キレイに何度も降り始めた。
「・・・もしかして、紙ヒコーキ?」
今、巷で話題の、紙製エネルギア・・・
「違いますよ〜?」
・・・ではなかった。
「これを作るにはいくつかやり方があるんですけど〜、難しい方でやってみましょうかね〜」
と言いながら、何度も折ったり開いたりを繰り返すコルテックス。
「俺が折るときに、こっちの難しいやり方で折れ、とか言わないよな?」
工程が倍程度に増えるので、余りやりたくない、といった様子のアトラス。
「心がこもっていれば、どんな折り方でも構わないと思いますよ〜?」
「・・・はい。難しい方で折ります」
彼はそう言うと、徐ろに紙を手にとって、コルテックスと同じように折り始めた。
「?」
ルシアが不思議そうに、そんな2人の作業を眺めていると、
「これで大体完成ですね〜」
規則正しく折り目のついた形容し難い形状をした何かが、コルテックスの手の上で出来上がった。
「あとは頭を折って、羽を広げて、息を吹き込めば〜・・・」
フッ・・・
ポコッ・・・
「折り鶴の完成です」
「・・・えっ?」
ただの四角い紙が、どうしたら鳥の形になるのか分からない、といった様子のルシア。
「・・・もしかして、折り鶴を見るのは初めてでしょうか〜?」
「えっと・・・うん・・・」
「では、これを差し上げます」
コルテックスはルシアに折り鶴を手渡した。
「・・・かわいい」
いろいろな角度から折り鶴を観察するルシア。
どうやらこの世界では、折り紙という文化はそれほど発達していないらしい。
「もしよろしければ、折り鶴の折り方をお教えしますけれど〜?」
「えっ?!いいの?」
「はい。ただ、アトラスが、ですけれどね」
「え?俺?」
と、疑問の声を上げるアトラスの手にも、完成した折り鶴が乗っていた。
・・・ただ、普通の折り鶴ではなかったが。
それを見たコルテックスが、ニッコリ(暗黒微笑)とした後に、
「・・・アトラス?何を遊んでいるのでしょうか〜?」
ゴゴゴゴゴ・・・
言葉にはならないプレッシャーを浴びせかけた。
「・・・いや、ちょっとした出来心だったんだ。今度はちゃんと作るから、その笑みをこっちに向けるの止めて・・・」
コルテックスと目線を合わせられないアトラス。
・・・だが、
「・・・アトラス君の凄い!」
アトラスの作った折り鶴を見て、眼を輝かせながらルシアが声を上げる。
『えっ?!』
プレッシャーのやり取りをしていたコルテックスとアトラスが、思わず、ルシアに驚愕の視線を送る。
・・・何故、2人がルシアの反応に驚いたのか。
それは、
「凄いね。この足と手のついた小鳥さん」
アトラスが悪乗りで作った二足歩行型折り鶴に、ルシアが強い興味を持っていたからである。
「あの〜、ルシアちゃん?その鶴の折り方は余り・・・」
「アトラス君。私にも、この鶴の折り方を教えて!」
「えっ?!」
「・・・」
驚愕の表情を浮かべるアトラスと、苦笑を浮かべるコルテックス。
「・・・ダメ?」
直ぐにアトラスから返事が戻ってこなかったためか、悲しそうな顔を浮かべながら、上目遣いでアトラスを見つめるルシア。
「えっ、いや・・・べ、別に構わない・・・けど・・・」
アトラスがそう言いながらコルテックスに視線を向けると、
ゴゴゴゴゴ・・・
彼女は笑みという名の憤りを顔に浮かべていた。
なお、副音声では『どうしてくれましょうか〜?』と言っていることだろう。
一方、ルシアは、
「うん!よろしくね、アトラス君!」
一切淀みのない、眩しすぎる笑顔を向けていた。
そんな、180度、趣の異なる2つの笑顔を向けられたアトラスは、
「はい・・・責任をもって、鶴の折り方をお教えさせていただきます・・・」
・・・心が罪悪感で粉砕されそうになるのであった。
ちなみじゃが、サイドストーリー(?)は、今回のルシア嬢の話、勇者たちの話、そして妾の話が残っておるのじゃ。
要するに、6序章はサイドストーリーのお話じゃな。
・・・もういい加減、時間を遡りたくないのじゃが、少なくともあと2回は戻らねばならぬことに、お付き合い願いたいのじゃ。




