14.0-07 新天地7
次の日。ワルツたちの朝は早かった。昨晩は早寝をした反動で、ルシアの寝起きが早くなってしまったのである。ワルツは元々眠らないので、ルシアが目を覚ませばそれが朝だった。
「さて、今日は何をする?」
まだ日も昇っていない早朝。朝食も稲荷寿司を食べながら、ワルツは妹に対して問いかけた。するとルシアは、稲荷寿司をじーっと見つめてから、覚悟を決めたようにこう言った。
「お寿司探し!」
「……ちなみに、今、妙な間があったのはどうしてかしら?」
「えっ……えっと……お、お寿司とお洋服と、どっちが良いか悩んだ……?」
「寿司と服よりも先に、食料や寝具とかをどうにかしましょうよ……。流石に毎食、稲荷寿司っていうはちょっとどうかと思うし……」
あと出来ればお金も稼ぎたい……。ルシアのポケットマネーに頼らざるを得ない現状は、姉のワルツにとって不甲斐ないことこの上なかった。
問題は、どうやってお金を稼ぐか、あるいは何を売るかだった。アルクの村にいたころは、鉄やオリハルコンを売っていたが、今のワルツの能力だけでは、大量の金属を精錬するというのは困難なのである。ルシアの力を使えば、問題無く精錬できるはずだが、それを売ったところで、ワルツの不甲斐なさはより悪化する一方でしかないのだ。ワルツの力だけで資金集めが出来るようにするためには、金属以外の何かを売るか、あるいは売買以外の方法を考える必要があった。
幸い、考える時間は嫌というほどあった。ワルツは一晩中、ルシアに抱きつかれていたので何もすることがなく、その間、資金集めの方法を考え続けていたのだ。
「ま、とりあえずここの村長に挨拶するところから始めましょっか。昨日は逃げられちゃったから、ちゃんと挨拶出来てないし……」
金儲けのアイディアはあるが、何をするにしても、まずは村の人々と仲良くなることが重要。この世界に来た当初の彼女と比べると、社交性は圧倒的に進歩していたと言えるかも知れない。
それから、ミッドエデンと連絡を取るべきか否かについて、あーでもないこーでもないと言いながらゆっくりと食事を摂り終える頃。ようやく日が昇ったらしく、村を取り囲んでいた木々の隙間から光が見えてくる。
その様子を見て、そろそろ村の中を歩いて回ろうという話になったワルツたちは、準備を整えて家の玄関扉を開けたわけだが……。その途端、面食らうことになった。
「……えっ」
「……は?」
「「「…………!」」」
家の周囲が武器を持った村人たちによって囲まれていたのだ。しかも、土嚢まで積まれて、即席の塹壕まで作られている有様。しかも、村の外を警戒するためのものではなく、明らかにワルツたちの事を警戒するためのものだった。
「「何これ……」」
2人が揃って首を傾げていると、昨日に引き続き、老齢の男性が村人たちの集団から一歩前に出て声を掛けてくる。
「お、お前たちは完全に包囲されておる!無駄な抵抗はやめて、大人しく投降しろ!」
「昨日は"あなた"だったのに、今日は"お前"に変化してるわね……私たちの呼び方」
「これ、状況が悪化してるんじゃないかなぁ……。せっかく魔物を倒してあげたのに……」
そう言って、顔を見合わせるワルツとルシア。予定では村長や村の人々に挨拶をして回るつもりだったのだが、どうやら始まる前から破綻してしまったようである。
と、そんな時のことだった。
「なんだよ。強え魔力を持ってるやつがいるって聞いたから来てみれば獣人かよ」
簡易バンカーに隠れていた村人の間から、そんな声が聞こえてきたのである。




