14.0-06 新天地6
新しくできた家で食べた初めての夕食は、もはや当然と言うべき稲荷寿司だった。食材も調味料も何も無かったので、夕食を作るわけにもいかず、ルシアが専用のポシェットで冷凍保存していた稲荷寿司のストックを食べることにしたのである。ちなみに、ストックの残量は約1ヶ月分。ただし、ルシア以外の人間が食べたなら、という条件付きだが。
一食で5人前の稲荷寿司を平らげるルシアに、これといって変わった様子はなく、彼女は普段通り美味しそうに稲荷寿司を頬張っていた。アルタイルやエデンたちに色々なことを言われてショックを受けているのではないかと心配していたワルツは、その様子を見て、まずは胸をなで下ろした。
この日は、食事を食べたら、すぐに就寝することになった。昼間に大規模な戦闘を行ってから別の大陸に飛んでくるまで、ルシアはずっと魔法を使い続けていたので、ワルツが心配して就寝を提案したのである。お腹いっぱいに稲荷寿司を食べたルシアとしても、ちょうど眠くなってきたらしく、大きな欠伸と共に姉からの提案を快諾した。
そして、何も無い部屋の中、重力制御魔法とオートスペルを併用した反重力エアベッドに横たわって、ルシアは眠り始める。そんな彼女の腕の中に——、
「(……えっと、もしかして私、抱き枕?)」
——小さくなったワルツが抱かれていた。
布団も寝袋も毛布も無い現状、反重力エアベッドで眠るのは自然な流れだと言えた。そして本来であれば、ルシアはルシアの重力制御魔法を、ワルツはワルツの重力制御システムを使って、それぞれ眠るという流れになるのが道理である。
しかし、今のワルツは自分の身体を浮かせられるほどの大きな出力の重力制御が行えず、ルシアの魔法に頼る形になっていたのである。そのルシアでも、眠った状態で、2人分の反重力エアベッドを展開出来るほど器用ではなかったので、苦肉の策(?)として2人で1つのベッドに眠ることにしたのだ。それが決まったとき、ルシアはそれはもう嬉しそうな表情を浮かべていたようだが、その理由は不明だ。
結果、ワルツは、妹に抱きつかれていたわけだが、彼女は姿が変わっても眠ることは無かった。本当なら、夜に色々とやりたいことがあったようだが、この日ばかりは諦めモード。甘んじてルシアに抱きつかれることにしたようである。
というのも——、
「うぅん……」
——眠っていたルシアがうなされていたからだ。
「(無理をしていたんでしょうね……。何にも無理をする必要なんてないのに……)」
ワルツは諦めたように小さく溜息を吐くと、その小さな手をルシアの手に重ねて握りしめた。すると魔法でもかけたのように、ルシアの寝息は落ち着いていき、安らかそうな寝顔に変わっていった。
「(今頃、みんな、どんな事になってるのかしら……)」
ワルツは機動装甲ごと無線通信システムを失い、ルシアが持っていた無線機も惑星の裏側までは届かなかった。それゆえ、ワルツは少し心配になっていたようだが——、
「(……ま、いっか)」
——彼女にとってミッドエデンと連絡が取れないのは些細な事だったらしく……。この日中にミッドエデンと連絡を取るというタスクは、思考の端からスゥッとフェードアウトしていったのであった。
◇
一方、ミッドエデンでは——、
「ワルツとア嬢が帰ってこないのじゃ……!何かあったのでは……!」わなわな
「いやいや、ルシアちゃんが見知らぬ少女と一緒に、一度は作戦指令本部に帰ってきたのを部下たちが目撃しているわ?多分、その少女って……姉さんだと思う。機動装甲の中から出てきたヤドカリの中身みたいな感じで」
「いや、あの気持ち悪いのと一緒にするなよ……」
「ということは、2人だけでどこかに行ったというのですか?!う、う、う……うらやましすぎるっ!」ぷるぷる
「…………」むっ
「…………」にゅっ
「まぁ、生きているのは間違いないのでしょう。しかし、さすがはお姉様とルシアちゃんです。連絡一つ入れずにどこかに飛び去るとは〜……。これは追跡部隊を結成して、追いかけなければなりませんねぇ〜?狩り……そうこれは狩りです!」
——やはり、大騒ぎになっていたようだ。まぁ、遠く離れた場所にいたワルツたちには知るよしも無かったようだが。




