14.0-05 新天地5
ワルツたちは柵で囲まれた村の中に入った。
村の周りには、真新しい柵が設置されていて、つい最近作られたばかりといった様子だった。その上、村の形状は、街道沿いに長く伸びるように作られていたところから見るに、元々は存在しない柵だったらしい。昔から柵があったとすれば、村の形状は街道に沿って作られるのではなく、柵が取り囲む中で大きくなっていくので、自ずと円形になるはずだからだ。
「この柵って、最近作られたばかりみたいね?」
「それまで魔物って襲ってきてなかったのかなぁ?」
「そうなんじゃない?この程度の村じゃ、都市結界を運用するっていうのも難しいと思うし……」
そんなやり取りを交わしながら、2人は村の中を歩いて行ったわけだが、やはり村の中には人っ子一人いなかった。家の中にはいるのだが、表に出てくる気配がないのだ。
「ちょっとショックかなぁ……」
「えっ?」
「何か怖がられてる気がする……」
「大丈夫よ。その内、慣れるわ?多分、皆、私みたいにコミュニケーションに難……じゃなくて、人見知りが激しいだけなんだと思うわよ?」
「なら良いんだけど……」
「で、どうしようかしら?もう少しで日が暮れそうだけど、家建てる?それとも宿を探す?」
「んー、嫌われてるなら、無理矢理宿に泊まると何か言われそうだから、お家を建てよっか?」
「疲れてない?エンデルシアでアルなんとかと戦ってからそのままここに来たから休んでないわよね?」
「肉体的には疲れてないよ?ほとんど何もしてなかったしね……(精神的には疲れてるけどね……)」
「そう……じゃぁ、作りましょうか」
手を動かしていた方が気が晴れるのだろうか……。ルシアが作る苦笑いを見てそんな事を考えながら、ワルツは頭の中で新しく建てる家の設計を始めた。それに必要な木、石材、その他の材料の必要量を集計していく……。
と、ワルツが考えていると、ルシアがおもむろに空き地に歩いて行く。そして、そこにしゃがみ込んで地面に手を当てた。その直後——、
ズドォォォォン!!
——と土煙を上げて、建物が出来上がった。石で出来た地下1階、地上2階建ての建物だ。土魔法を応用して建物を作り上げたらしい。かつて、ボレアス帝国で城を丸ごと一つ作り上げた彼女にとっては造作も無い事だったようである。
「できたよ?お姉ちゃん」
「…………」ぽかーん
「お姉ちゃん?」
「……私、いる意味、あるのかしら?」
「えっ……」
「ま、今に始まった事じゃないからいっか」
ワルツは一時的に遠くの空に向かって死んだ魚のような目を向けていたものの、すぐに我に返ると、話を誤魔化すようにルシアの手を握る。そしてワルツは、新しくできたばかりの家に入って、仕上げの作業を始めた。ルシアが作った家は、言わば骨の部分だけ。扉や窓などは別途作らなければならなかったからだ。
それから1時間ほどが経ち、家が完成する。必要な材料はルシアが転移魔法で運んで、それをワルツが加工して組み上げた。機動装甲を失ったワルツであっても、指先からレーザーを出して木材を精密にカットするくらいは出来たのだ。精密さと時間は、機動装甲があったころと謙遜は無いほどだ。
こうして彼女たちは、異国の地で改めて生活を送ることになったのだが……。そんな2人の様子を遠くから眺めている者がいたことに、彼女たちが気付くことはなかったようだ。




