14.0-03 新天地3
「あっ、村人発見!」
「なんか、珍獣でも見つけたような言い方だね……」
数分ほど街道を歩いて行った先で、ワルツたちは村人を発見した。いや、正確には村人たち、と表現すべきか。
彼らは木の柵で囲まれた村の入り口に立って、街道の方に視線を向けていたようである。その手には桑やら鎌やら弓やらナイフやらが握られており、騒然としていたようである。
「何かしら?戦争の準備?」
「んー……どうかなぁ?」
ルシアは首を傾げつつも、何となく状況を理解していたようだ。村人たちが自分たちに向けるその表情を、彼女はよく知っていたのだ。
それは恐怖の表情。強大な力を持った"何か"を前にしたとき、人々が見せる表情だった。強大な魔力を持つルシアは、これまで度々その表情を向けられた事があったので、すぐに分かったらしい。
そして彼女の予想は確信に変化する。
「(空を飛んできたり、お姉ちゃんが森の中で攻撃したりしたから、みんな警戒してるんだね……)」
空を飛ぶ魔法——つまり重力制御魔法は、言わば莫大な魔力を垂れ流すような魔法なのである。そんな魔法を集落の近くで使えば、住んでいる者たちが大混乱に陥るのは明白だった。例えるなら、飛行機を知らない原住民の里の近くを大型ジェット機が通過するようなものだ。
それだけでも村の人々が警戒してしまうには十分な効果があるというのに、それに輪を掛けて、ワルツは森の中で重力弾を放ったのである。それによって生じた大規模な自然破壊と轟音と衝撃が村にどんな影響をもたらしたのかは言うまでも無いだろう。おそらく、想像を絶する混乱が、普段は静かなはずの村に襲い掛かったに違いない。
ルシアには手に取るように状況が分かったようだが、しかし、一方のワルツの方は、いつも通り空気が読めていなかった。
「これから戦争をするかもしれないところに降りて来ちゃったかも知れないから、ちょっと様子を見て危険そうだったら別の場所にしましょ?」
「あ、うん……多分違うと思うけどね……」
「えっ?」
そんな煮え切らないやり取りをしながら2人が村の方へと近付いていくと、村長らしき老人が酷く怯えた様子で皆の前に立つ。そしてワルツたちと50mほどの距離になった時、彼は覚悟を決めたのか、振り絞るように声を上げた。
「あ、あなた方は何者ですか?!こ、この村に何用です?!その服装を見る限り、学生のようには見えないようですが……」
対するルシアとワルツは顔を見合わせて同時に首を傾げる。2つほど不明なことがあったのだ。
その内、1つについては言うまでも無いだろう。"学生"という単語が理解出来なかったのだ。もちろん、言葉の意味が分からないというわけではない。幸いにも、ここでも日本語が使われていたので、2人とも言葉の意味も文脈もちゃんと理解していたのだ。問題は、この奥深い森の中で"学生"という単語が出てくる理由。それが分からなかったのである。
そしてもう一つは——、
「そういえば、身分、どうしよ?」
——何者か、という問いかけに対して何と答えれば良いのか分からなかったことだ。かつて2人が初めてアルクの村に降り立った際には、戦争から逃れてきた避難民という体だったが、ここではどう答えるべきか悩んでしまったのである。
「お姉ちゃんは町娘だよね?身分って言えるかは微妙だけど……」
「じゃぁ、ルシアは勇者?ってことは、貴族扱いなのかしら?」
「勇者はちょっとどうかと思うんだよね……。大陸の外側で勇者って言って通じるか分かんないし……」
「まぁ、確かに、痛い子だと思われても嫌よね……」
「うん……本当に……」
2人で相談して——、
「「避難民です!」」
——彼女たちは、1年半前に使った言い訳をまた使うことにしたようだ。そこに理由は無い。適当である。
その返答を聞いた村長と思しき人物や、他の村人たちは、例外なくまったく同じ2つのことを思った。……お前たちのような避難民がいるか。そして、周囲は戦争のない安全な地域ばかりだというのに、いったいどこから避難してきたのだ、と。
結果、村人たちはより一層警戒心を深くさせるのだが……。そんな彼らの思考を停止させる事態が生じた。
……ヲォォォォン!!
周囲のものをビリビリと振動させるような大きな獣のものと思しき咆哮が、周囲に響き渡ったのだ。
強くてニューゲーム的な状況かもしれぬのう。




